COVID-19の収束シナリオとその後の社会、経済について分析する寄稿の第5回⽬は、COVID-19の各産業に対する短期的な影響とそれに対して必要な対応について触れたい。

ヘルスケア業界への短期的な影響は軽微

 COVID-19の流行が本格的に始まった2月から比較して、各産業における株価指数がどの程度影響を受けたかを図8に示した。これらの業界の中でまず挙げられるのが、移動制限により利用客数に多大に影響を受けた交通業界だろう。特に異国間での交通を担う航空業界は多大な影響を受け、4月27日時点での株価指数は2月3日比で34%も下落した。鉄道などの陸運については、海運・空運と比較すると株価指数の下落率は小さいが、外出自粛や在宅勤務の推進により利用客が大幅に減少しており、今後しばらく影響は続くと考えられる。

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 また、金融サービスについても同様に交通業界同様に株価指数への影響が大きかった業界の1つだろう。経済活動の縮小に加え、各業界における経営破綻の懸念が増している現状にあっては、金融サービス業の株価指数が下落するのは必然といえる。

 エネルギー業界においても、在宅勤務の急速な浸透や工場オペレーションの一時的な停止などにより、各産業での営業所の利用率が低下している。特に工場などの電力消費地の停止が長引くと、BtoB需要が縮小し大きなインパクトをもたらし得る。自動車業界も新車販売台数はグローバルで軒並み下がり、短期的なダメージを大きく受けている。今後の移動制限の解除が注視される。

 一方で医薬品業界および消費財業界は需要が景気に左右されず、景気変動に強い業界であり、今回のコロナショックによる影響も軽微だ。食料品業界は株価指数が8%下落、医薬品業界においては5%の下落にとどまっている。特に医薬品業界については治療薬開発に対する期待も込めて投資が流れている可能性はあるが、安定的に収益が確保できる医薬品業界は他業界と比較するとパンデミック環境下でも安定している。

「非接触」を前提としてあらゆる業務の見直しが進む

 では、各業界において、COVID-19によって今後どのような変化が起こるだろうか。各業界に対する影響と取るべき対応策について図9に整理した。影響を大きく受けた交通業界やエネルギー業界などは、社会システムの在り方とセットで抜本的な対応を求められる。また、今のところ影響が軽微な消費財・医薬品業界においても、新たな課題が浮上しており、その対応が求められている。

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 消費財業界では、これまでとは異なるオケージョン(機会)や価値観が出現し、それらへの対応が求められる。例えば、外出自粛により在宅時間が増加することで、家中での消費が拡大し、「Zoom飲み」に代表される新たなオンラインシーンが生まれる。大規模なイベントなどのリアルな場のオケージョンは減少し、リアルとオンラインが融合する世界が進む。

 外出を控えるためのECによる購買も増加しており、自粛疲れやメンタルヘルスの問題が顕在化する中で、人々は新しい形の「つながり」や「癒やし」を求めるようになるだろう。また、個人の健康状態の見える化が進み、企業は従業員の健康リスクに対する厳格な管理が求められるようになる。リアルな場では、対面接触をできるだけ低減し、避けるような方向性が強まる。接客サービス業はバーチャル化や自動化、遠隔化が進むだろう。

 医療業界に関しては、医師・患者間などで対面接触の機会が多く、対応を求められる。既に実用化されている事例としては、診療行為の遠隔化が挙げられる。オンライン診療制度はこれまで医療過疎地における診療などに活用が限定されており、初診患者には認められていなかったため、普及が進んでいなかった。しかし、このたびCOVID-19収束までの期間限定ではあるものの、初診患者のオンライン診療が認められたため、今後急速に浸透すると考えられる。

 医薬品業界に関しては、臨床試験における被験者のフォローアップの変化が挙げられる。いわゆるリモート治験の普及である。今まで臨床試験の被験者は健康状態管理のために定期的に通院する必要があった。だがオンラインによるフォローアップが可能となれば、通院による感染リスク低減が可能となる。また付随効果として、通院が負担で臨床試験に参加できなかった患者も参加可能となり、症例登録期間の短縮による臨床試験費用削減が期待できる。国内でもMICIN(東京・千代田)とシミックによる「MiROHA オンライン診療」をはじめ、オンラインで臨床試験を支援するシステムが開発されており、COVID-19感染拡大により急速に普及すると考えられる。

 MRによる医師への情報提供や副作用情報収集も対面接触が前提だったが、COVID-19の感染拡大により医療機関への訪問を自粛しているMRは多い。学会などに足を運んでKOLと関係性を構築することも、昨今の状況では難しい。医療機器は、展示会を活用してマーケティングセールスをかけるのが一般的だったが、それらも今後は形を変えざるを得ないだろう。直接訪問したり展示会や学会に参加したりせずとも医師とのコミュニケーションが可能なオンラインプラットフォームが、今後普及するだろう。

 以上、各産業に求められる短期的なインパクトと消費財・医薬品業界を中心に対応を述べてきた。次回は中長期的に世界観がどう変化するかについて考察したい。