米Gilead Sciences社が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して開発を進めている抗ウイルス薬のレムデシビルについて、特例承認を適用して、2020年5月にも日本で承認されるとの報道が相次いでいる。これまで分かっている事実関係について、2020年4月28日、本誌(日経バイオテク)が取材した。

 レムデシビルは、Gilead社がもともとエボラ出血熱を対象に開発を進めていた低分子化合物で、ウイルスのRNAポリメラーゼを阻害する作用を有する。これまでに、レムデシビルが承認された国・地域は無い。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対しては、試験管内(in vitro)の実験で、ウイルスの活性を抑えることが明らかになっており、世界中で複数の臨床試験が実施されている。

 中でも、Gilead社は、COVID-19と診断された中等度の入院患者1600例を対象とした第3相臨床試験と、COVID-19と診断された重度の入院患者2400例を対象とした第3相臨床試験の2本をグローバルで実施中。2020年4月末から5月にかけて、2本の臨床試験に組み入れられた計1000例の患者について、データが公表される予定だ。日本はこのうち、中等度の入院患者を対象とした第3相臨床試験に参加しているが、どの程度の国内患者を組み入れられたか、現時点では不明。重度の入院患者を対象とした第3相臨床試験は、患者の組み入れが終了しており、日本は参加できていない。

 こうした状況の中、2020年4月27日、安倍晋三首相が衆院本会議の答弁の中で、レムデシビルについて、「間もなく薬事承認が可能となる見込み」と発言。その後、政府関係者の話として「特例承認を適用する方針」「2020年5月にも利用可能となる見通し」などと相次いで報じられた。

 特例承認とは、「医薬品医療機器等法」の第14条の3第1項に定められている仕組みだ。(1)国民の生命や健康に重大な影響を与えるおそれがある疾病の健康被害の拡大を防止するために必要な医薬品で、かつ、当該医薬品以外に適当な方法がない、(2)承認制度が日本と同等水準にある外国で承認・販売されている医薬品である――という条件を満たした場合、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を踏まえ、医薬品を承認する仕組み。「条件付き早期承認制度や先駆け審査指定制度、迅速審査・優先審査などと並び、医薬品を早期に承認する枠組みだ」(厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課)

 ただ、Gilead社やその日本法人は、2020年4月28日までに、レムデシビルの承認申請時期について踏み込んだ発表はしていない。日本法人の広報担当者も、「現時点で決まっていることは何も無い。予定は未定」と話している。また、本誌の取材に、厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課の担当者は、「特例承認を適用するとか、何月に承認するなど、何も決まっていない」と認めている。

 では、レムデシビルに特例承認を適用するとの話が急浮上したのはなぜか――。政府関係者の話や報道を総合すると、レムデシビルに特例承認を適用できるよう、政府が政令改正を検討していることが明らかになった、というのが正確なところのようだ。そして、「2020年4月から5月に発表される計1000例のデータに基づいて、もしもGilead社が承認申請すれば、早ければ2020年5月承認の可能性もあるかもしれない、ということだろう」(業界関係者)。

 実は、「医薬品医療機器等法」に基づく特例承認は、どの国で承認されたどんな医薬品にも適用できるわけではない。「医薬品医療機器等法の第14条の3第1項の医薬品等を定める政令」という、関連の政令が存在しており、そこで承認制度の対象国や対象品目があらかじめ規定されているのだ。現在のところ、同政令で承認制度が日本と同水準の国となっているのは、英国、カナダ、ドイツ、フランスのみ、対象品目は新型インフルエンザのワクチンだけ。このままでは、米国で承認された医薬品や、新型コロナウイルス感染症に対する医薬品は対象にならないため、あらかじめ、政令改正をしておこうというわけだ。

 もっとも、今後政令が改正されたとしても、実際にレムデシビルに特例承認が適用されるかどうかは分からない。適用されるには、そもそも、Gilead社が承認申請を行うことや、政令が定めるいずれかの国で承認されていることなどが前提となるからだ。

 また、加藤勝信厚生労働大臣は、2020年4月21日の会見で、臨床試験で「結果が出れば、薬事承認へのプロセスはできるだけ短期化して、有効と確認された治療薬を届けるよう努力する」とコメントしている。比較的審査期間が短いとされる先駆け審査指定制度の指定品目でも、審査期間が6カ月かかると一部報道で指摘されていることについて、「6カ月にこだわるつもりは全く無い。必要最小限、できる限り短く対応していきたい」とコメントしており、厚労省は、有効な治療薬については、あらゆる仕組みを使って、できる限り早急に承認を行う方針だ。

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