米食品医薬品局(FDA)は、2020年3月28日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の入院患者などを対象に、製薬企業から無償提供された抗マラリア薬のヒドロキシクロロキンとリン酸クロロキンについて緊急使用許可(Emergency Use Authorization:EUA)を出した。

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 緊急使用許可の対象は、COVID-19で入院中の10歳代と成人の患者のうち、他の薬剤の臨床試験に参加できないなどで投与が必要だと認められる患者。小児の患者や入院を要しない軽症の患者には投与できない。

 並行して米保健福祉省(HHS)は、2020年3月29日、スイスNovartis社傘下のSandoz社から3000万ドーズのヒドロキシクロロキン、ドイツBayer Pharmaceuticals社から100万ドーズのリン酸クロロキンの無償提供を受けたと明らかにしている。今後、HHSの事前準備・対応担当次官補局が連邦緊急事態管理庁(FEMA)と協働し、HHSの戦略的全米大量備蓄プログラム(Strategic National Stockpile:SNS)を通じて、無償提供された薬剤を各州に配布する。

 ヒドロキシクロロキンとリン酸クロロキンは、米国でマラリアなどの治療薬として承認されている。SARSコロナウイルス(SARS-CoV)に対して、in vitroで効果が認められたとの報告があることから、ヒドロキシクロロキンとリン酸クロロキンは、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)に対しても効果を示すのではないかと期待され、中国で複数の臨床試験が進行中。また、リン酸クロロキンについては、中国国家衛生健康委員会のCOVID-19の治療ガイドラインで使用が推奨されている。

 HHSは、現時点でのヒドロキシクロロキンやリン酸クロロキンのCOVID-19に対する有効性について、「症例報告ベースで、COVID-19の入院患者にある程度の利益をもたらす可能性があることが示唆されているものの、COVID-19への有効性を示す科学的根拠を提供するには、臨床試験が必要だ」とくぎを刺している。

 なお、日本では、リン酸クロロキンは承認されていないものの、ヒドロキシクロロキン(商品名:「プラケ二ル」)は全身性エリテマトーデスの治療薬として承認されている。国内では、ロピナビル・リトナビルで治療反応性が乏しかった、複数のCOVID-19の入院患者に、医師の判断でヒドロキシクロロキンを投与して、症状が改善したという症例報告が出されている。

表1 世界で治療薬候補として臨床試験が実施されたり、基礎研究の結果から効果が期待される既存薬(3月18日更新)
一般名「商品名」企業現在の適応症(開発対象疾患)新型コロナウイルスに対する効果と開発状況
カモスタット
経口薬
「フオイパン」など小野薬品工業など慢性膵炎などドイツなどの研究チームによる基礎的な実験で、新型コロナウイルスがヒト細胞に感染する際にセリンプロテアーゼのTMPRESS2を利用することを解明。同研究チームはカモスタットのTMPRESS2の阻害活性によって抗ウイルス活性を発揮するのではないかと指摘している
シクレソニド「オルベスコ」帝人ファーマ気管支喘息国立感染症研究所での基礎的な実験で、新型コロナウイルスに対して強い抗ウイルス活性を認めたと報告されている。国内で臨床研究を実施予定
ナファモスタット
注射薬
「フサン」など日医工など慢性膵炎など日本の研究チームによる基礎的な実験で、ナファモスタットが新型コロナウイルスがヒト細胞に感染する際に利用するセリンプロテアーゼのTMPRESS2を阻害する活性を持つことを突き止めた。近く、日本で臨床研究を開始予定
ヒドロキシクロロキン「プラケニル」フランスSanofi社全身性エリテマトーデスなどリン酸クロロキンについて、中国は、COVID-19の診療ガイドラインで使用を推奨している。また中国ではCOVID-19にヒロドキシクロロキンを投与する臨床試験が実施されていることから、国内でもロピナビル・リトナビルで治療反応性が乏しかった複数例に投与され、症状が改善した
ファビピラビル「アビガン」など富士フイルム
富山化学など
新型または再興型インフルエンザウイルス感染症細胞内で変換された三リン酸化体が、ウイルスのRNAポリメラーゼを選択的に阻害する。ファビピラビルは、in vitroで新型コロナウイルスの抑制効果が認められていうる。中国で臨床試験が実施されている他、富士フイルムも国内で治験を実施して承認を目指す方針
リン酸クロロキン「Resochin」(日本未承認)ドイツBayer社マラリア感染症などクロロキンは、in vitroで新型コロナウイルスの抑制効果が認められている。中国で臨床試験が実施されている
レムデシビル米Gilead
Sciences社
(エボラ出血熱)Gilead社は、レムデシビルが抗ウイルス作用を示すメカニズムを開示していないが、これまでの研究から、ウイルスのRNAポリメラーゼを阻害することなどが報告されている。中国など複数の国で臨床試験が実施中。国内でも医師主導治験などが行われる見通し
ロピナビル・リトナビル「カレトラ」米Abbvie社HIV感染症HIV-1に対するプロテアーゼ阻害薬。コロナウイルスに対する作用機序は明確になっていないが、ロピナビルはin vitroでMERS-CoVの抑制効果が認められている他、動物モデルでも予後改善効果があった。中国などで臨床試験が実施中。日本では観察研究が進行中
WHOや関連学会、臨床試験登録サイトなどの情報を基に編集部で作成。このうち、現状で中国や米国で複数の臨床試験が積極的に実施されているのは、レムデシビルとロピナビル・リトナビルだ