国立国際医療研究センター国際感染症センターの大曲貴夫センター長

 国立国際医療研究センター(NCGM)は、2020年3月23日、メディア向けの勉強会を開催。NCGM国際感染症センターの大曲貴夫センター長は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)を対象にした抗ウイルス薬であるレムデシビルの臨床試験を開始すると発表した。2月25日に米国立衛生研究所(NIH)が開始を発表した臨床試験に参加する格好だ。早ければ、3月中にも投与が開始される可能性がある。

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 NIHが発表した臨床試験は、COVID-19の入院患者に対するレムデシビルの安全性と有効性を評価するランダム化二重盲検プラセボ対照試験だ(臨床試験データベースの登録番号:NCT04280705)。レムデシビル以外の有望な治療薬候補が見つかった場合に、その治療薬候補を投与する群を追加できるアダプティブデザインとなっている。NIH傘下の米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が主導し、世界の約75の医療機関が参加する国際多施設共同試験として実施する。現時点で日本から参加することが決まっているのはNCGMのみ。

 臨床試験データベースやNCGMの資料によると、同試験の対象となるのは、(1)胸部X線撮影やCTスキャンなどで浸潤影が認められる、(2)検査時にラ音や断続性ラ音が確認され、かつ酸素飽和度が94%以下、(3)酸素吸入や機械的換気が必要──のうちいずれか1つが認められるなどの条件を満たしたCOVID-19の成人患者。現段階で目標症例数は全施設の合計で440例程度だ。大曲センター長は、「参加する国や施設ごとの目標症例数は設定されていない。試験が進むにつれて、目標症例数は変更される可能性もある」と説明した。

 同試験では被験者を、レムデシビル(初日に200mgを静脈内投与した後、維持用量として1日1回100mgを最長10日間)を静注する群と、同スケジュールでプラセボ(偽薬)を投与する群に割り付ける。大曲センター長は、「COVID-19の患者にプラセボを投与することに対して、抵抗を感じる人がいるかもしれない。ただ、医薬品の有効性を科学的に証明するためには、プラセボとの比較が必要だ」と訴えた。

 同試験では被験者の臨床状態(症状の重篤度)を、完全回復(入院を必要とせず、活動に制限も受けない)から死亡までの8段階の尺度で評価する。主要評価項目は、試験開始から15日目における臨床状態の各尺度の割合とした。なお、当初の予定では、被験者の臨床状態を7段階に分ける予定としていたが、「NIHと協議を重ねた結果、8段階の尺度に変更することになった」(大曲センター長)。また同試験では、最初の100例の被験者を評価した後に、評価基準が適切であるか再評価する予定だ。大曲センター長は、試験開始の時期について、「米国では既に被験者への投与が始まっている。我々も可能な限り早く準備を進め、何とか3月中には投与を開始したい」と話していた。

 レムデシビルは、もともと米Gilead Sciences社がエボラ出血熱の治療薬として開発を進めてきた抗ウイルス薬だ。これまでの研究から、ウイルスのRNAポリメラーゼを阻害することなどが報告されている。アフリカミドリザルの腎臓上皮由来の細胞株であるVero E6細胞を用いた研究で新型コロナウイルスに対する抗ウイルス活性が確認されている。また、アカゲザルを用いた動物実験でも、MERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルス(MARS-CoV)の感染症に対する有効性を示唆する結果が発表されており、新型コロナウイルスに対する効果も期待されている。

 レムデシビルは未承認薬であり、日本国内で流通していない。Gilead社は、NIHが主導するレムデシビルの臨床試験や、中国で進行中の臨床試験に対して同薬を無償提供しており、「NCGMの臨床試験で用いるレムデシビルは、NIHから供給を受ける予定」(大曲センター長)だ。

 同勉強会では、NCGMが開始を計画している他の治療薬の臨床研究に関しても説明があった。1つ目はCOVID-19患者を対象にした気管支喘息治療薬の「オルベスコ」(シクレソニド)の臨床研究だ。同薬については、国立感染症研究所の研究で抗ウイルス活性が認められたとの報告がある。大曲センター長は、「肺炎を発症していない軽症の患者を対象に、肺炎の発症抑制効果を検証しようと考えている。できるだけ早く開始できるように、プロトコルの検討を進めているが、詳細について話せる段階ではない」と説明した。

 2つ目は、「アビガン」(ファビピラビル)や「フサン」(ナファモスタット)を利用した臨床研究で、「今回開始するレムデシビルの臨床試験の参加基準を満たさなかった肺炎の患者などを対象にする予定」(大曲センター長)だ。同研究については、東京大学などと共同で実施に向けた準備を進めており、「ファビピラビル単体で使用するか、あるいはファビピラビルとナファモスタットと併用するかなど、詳細について議論している段階」とした。