COVID-19の治療薬として中国や日本で注目されるファビピラビル。ただし、「アビガン」(ファビピラビル)の物質特許は切れており、富士フイルム富山化学側は中国企業側から一時金やロイヤルティーを受け取れないのが実情だ

 「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にファビピラビルが有効である」という、中国科技部(日本の文部科学省に相当)の生物中心の見解の根拠となった臨床試験のうち、1本の結果が明らかになった。中国深センの中国The Third People's Hospital of ShenzhenのQ Cai氏らの研究チームが、2020年3月18日、Engineering誌のオンライン版に校正前論文(Journal Pre-proofs)を発表した(2020年4月9日時点で同論文は一時取り下げ中)。

バイオの専門情報が毎日届くメルマガ(無料)の登録はこちらから
「日経バイオテク」の無料試読のお申し込みはこちらからお進みください。

 同臨床試験は、COVID-19に対するファビピラビルの有効性、安全性を評価するため、The Third People's Hospital of Shenzhen(深セン市第三人民医院)で実施された非ランダム化非盲検比較試験(中国の臨床試験データベースの登録番号:ChiCTR2000029600)。対象は、16歳から75歳で、PCR検査で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性と診断され、発症から7日以内に同医院に入院した患者。体温が38℃以上か、少なくとも1つの肺炎関連の全身性症状または呼吸器症状を呈し、経口投与ができる症例のみを組み入れた。症状が重篤な患者は除外された。

 その上で、標準療法に加えてファビピラビルの投与(1日目は1回1600mg×2回、2日目から14日目は1回600mg×2回)にインターフェロンα吸入(1日2回500万ユニット)を併用する群と、対照群として、標準療法に加えて抗HIV薬のロピナビル・リトナビル配合薬の投与(1日目から14日目まで1回100mg×2回と1回400mg×2回)にインターフェロンα(IFN-α)吸入(1日2回500万ユニット)を併用する群を比較し、ファビピラビルの安全性や有効性を評価した。標準療法は、酸素吸入や補水、解熱鎮痛薬、制吐薬の投与など。ファビピラビルは、富士フイルムの製造特許に触れない形で、中国Haizheng Pharmaceutical社(海正薬業)から提供された「アビガン」(ファビピラビル)の後発医薬品。ロピナビル・リトナビルは、米AbbVie社から提供を受けた先発医薬品である。

 倫理的な理由から、同一期間に入院した患者を、治療薬の異なる2群に割り付けるのが難しいことなどから、研究グループは、別々の期間に連続して入院した患者を2つの群に割り付けた。具体的には、1月30日から2月14日までに同病院を受診し、組み入れ基準を満たした患者35例をファビピラビル群に割り付け、それ以前、1月24日から1月30日までに、同病院で既にロピナビル・リトナビルの投与を受けていた患者のうち、基準を満たした患者45例をロピナビル・リトナビル投与群に割り付けた。2つの群でベースラインの患者背景は同等だった。

 臨床試験では、2つの群の有効性(胸部CT検査の画像所見の改善率、ウイルスクリアランスまでの期間)、安全性を比較した。胸部CT検査の改善率は、治療4日後、9日後、14日後の画像所見を2人の放射線技師が一定の基準で判定し、改善した患者の割合と定義された。また、ウイルスクリアランスまでの期間は、陽性と判定されてから、24時間の間隔を空けたqPCR検査で、2回連続して陰性と判定されるまでの期間と定義された。

 その結果、胸部CT検査の画像所見の改善率は、ファビピラビル投与群で91.43%、ロピナビル・リトナビル投与群で62.22%で、交絡因子を調整した後でもファビピラビル群で有意に高かった(p=0.004)。また、ウイルスクリアランスまでの期間(中央値)は、ファビピラビル投与群で4日(四分位範囲:2.5日–9日)、ロピナビル・リトナビル投与群で11日(四分位範囲:8日–13日)と、ファビピラビル群で有意に短かった(p<0.001)。

 副作用が認められた患者は、ファビピラビル群で11.43%(4例)で、内訳は下痢が2例、肝・腎障害1例、その他1例だった。また、ロピナビル・リトナビル投与群では55.56%(25例)で、内訳は吐き気が6例、下痢が5例、嘔吐が5例、皮疹が4例、肝・腎症例が3例、その他が2例で、ロピナビル・リトナビルをHIV患者に投与した際の副作用と類似していたという。

 こうした結果から、研究チームは、ファビピラビルは、症状改善やウイルス排除などの観点から、COVID-19に有意に有効な治療であり、ロピナビル・リトナビルに比べて、副作用も少ないと結論した。

 なお、日本で新型または再興型インフルエンザウイルス感染症を対象に承認されている富士フイルム富山化学の「アビガン」(ファビピラビル)の用法・用量は、1日目は1回1600mg×2回、2日目から5日目は1回600mg×2回であり、今回のCOVID-19に対する投与期間は、その倍以上に設定されていたことになる。この点について、研究チームは、ファビピラビル群では安全性、忍容性が認められ、投与中止に至った症例も無かったとして、投与期間が倍以上であってもファビピラビルは安全であると強調していた。

 同臨床試験は、ランダム化や盲検化が行われていないことや、症例数が限られていること、別々の期間に被験者の組み入れを行ったことなど、臨床試験のデザインには限界があった。ただ、有効性や安全性など、COVID-19に対するファビピラビルの有用性を示唆するデータの1つになるものとみられる。