中国科技部(文部科学省に相当)が開催した記者会見。新型コロナウイルスに対して、ファビピラビルが実質的に初の治療薬となるため中国メディアが大々的に報じた(画像:中国国家網)
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 中国科技部(日本の文部科学省に相当)の生物中心は、2020年3月17日、中国北京で記者会見を開催。生物中心の張新民主任は「ファビピラビル(中国での一般名:法匹拉韋)の2本の臨床試験が完了し、良好な臨床効果を得た」と説明した上で、今後、中国内の医療機関に対して、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者の診療ガイドラインへの掲載を推奨していると明らかにした。

 張主任は会見で、ファビピラビルについて「日本では、2014年から販売されており、明確な副作用は報告されていない」と安全性を強調。COVID-19を対象に中国で行われた臨床試験で、明確な副作用は認められなかったという。

 詳細なデータは明らかでは無いが、今回の発表の根拠になった2本の臨床試験のうち1本は、中国深センの中国The Third People's Hospital of Shenzhenが主導した臨床試験(登録番号:ChiCTR2000029600)とみられる。同臨床試験は、PCR検査で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性と診断され、COVID-19で肺炎を呈した患者90例を対象として、(1)αインターフェロン噴霧群、(2)ロピナビル・リトナビルにαインターフェロン噴霧を併用する群、(3)ファビピラビルにαインターフェロン噴霧を併用する群に割り付け、ファビピラビルの安全性と有効性を評価するというものだ(2020年4月9日時点で同臨床試験の論文は一時取り下げ中)。また、もう1本の臨床試験は、湖北省武漢の中国Zhongnan Hospital of Wuhan Universityが主導したランダム化比較試験だが、詳細は不明。

 今回、2本の臨床試験にファビピラビルを提供したのは、中国の大手製薬企業である中国Zhejiang Hisun Pharmaceutical社(浙江海正薬業)である。同社は、2016年6月、富士フイルムと「アビガン」(ファビピラビル)の特許ライセンス契約を締結。契約に基づき、Zhejiang Hisun Pharmaceutical社は、中国において「アビガン」(ファビピラビル)の開発・製造・販売を行えるようになった。富士フイルムは、一時金やロイヤルティを受け取る契約だった。

 ただしその後、2019年に「アビガン」(ファビピラビル)の物質特許が失効し、前述した特許ライセンス契約も終了。現在、ファビピラビルの製造特許は存続しているものの、契約終了後、Zhejiang Hisun Pharmaceutical社は、富士フイルムの製造特許に触れない形でファビピラビルを開発・製造している。今回、中国で行われた臨床試験に提供されたファビピラビルも同様に製造された後発医薬品に当たる。富士フイルムの広報担当者は、「現在もZhejiang Hisun Pharmaceutical社とは協力関係にあるものの、製造特許は存続しているため、不純物の組成などが富士フイルムが製造するファビピラビルと若干異なる可能性は否定はできない」とコメントしている。

 国内で「アビガン」(ファビピラビル)は、2014年3月、新型または再興型インフルエンザウイルス感染症を効能・効果として、富士フイルムが製造販売承認を取得した。承認に当たっては、既存の抗インフルエンザ薬には無い作用メカニズムを有していることや、動物実験の結果から催奇形性のリスクが懸念されることなどから、ファビピラビルは「既存の抗インフルエンザ薬に耐性を有し、かつ高病原性のインフルエンザ感染症の蔓延に備える医薬品」と位置付けられ、厚生労働大臣の要請がない限りは、製造などを行わないことなどの承認条件が課されている。

 ただ、ファビピラビルの作用機序は、宿主の細胞内でリボシル三リン酸体(ファビピラビルRTP)に代謝され、一本鎖マイナス鎖RNAウイルスであるインフルエンザウイルスの複製に関与するRNAポリメラーゼを選択的に阻害すると考えられている。そのため、これまでにさまざまな研究が実施され、インフルエンザウイルス以外にも、エボラ出血熱やマールブルグ病など複数の感染症へ有効性を示す可能性が示唆されてきた。世界的に流行が広がっている新型コロナウイルスは、一本鎖プラス鎖RNAウイルスだが、同ウイルスに対しても、同じようにRNAポリメラーゼを阻害するのではないかと期待され、中国や日本で複数の臨床試験や観察研究が実施されているところだ。

中国や日本で臨床評価中の既存薬の一覧を更新

 中国では、2020年2月、 中国国家薬品監督管理局(National Medical Products Administration)が、Zhejiang Hisun Pharmaceutical社に対し、ファビピラビルの後発医薬品の製造を認可し、COVID-19による肺炎を対象とした臨床試験を許可するとともに、臨床試験でのさらなる評価を求めていた。

表1 世界で治療薬候補として臨床試験が実施されたり、基礎研究の結果から効果が期待される既存薬(3月18日更新)
一般名「商品名」企業現在の適応症(開発対象疾患)新型コロナウイルスに対する効果と開発状況
カモスタット
経口薬
「フオイパン」など小野薬品工業など慢性膵炎などドイツなどの研究チームによる基礎的な実験で、新型コロナウイルスがヒト細胞に感染する際にセリンプロテアーゼのTMPRESS2を利用することを解明。同研究チームはカモスタットのTMPRESS2の阻害活性によって抗ウイルス活性を発揮するのではないかと指摘している
シクレソニド「オルベスコ」帝人ファーマ気管支喘息国立感染症研究所での基礎的な実験で、新型コロナウイルスに対して強い抗ウイルス活性を認めたと報告されている。国内で臨床研究を実施予定
ナファモスタット
注射薬
「フサン」など日医工など慢性膵炎など日本の研究チームによる基礎的な実験で、ナファモスタットが新型コロナウイルスがヒト細胞に感染する際に利用するセリンプロテアーゼのTMPRESS2を阻害する活性を持つことを突き止めた。近く、日本で臨床研究を開始予定
ヒドロキシクロロキン「プラケニル」フランスSanofi社全身性エリテマトーデスなどリン酸クロロキンについて、中国は、COVID-19の診療ガイドラインで使用を推奨している。また中国ではCOVID-19にヒロドキシクロロキンを投与する臨床試験が実施されていることから、国内でもロピナビル・リトナビルで治療反応性が乏しかった複数例に投与され、症状が改善した
ファビピラビル「アビガン」など富士フイルム
富山化学など
新型または再興型インフルエンザウイルス感染症細胞内で変換された三リン酸化体が、ウイルスのRNAポリメラーゼを選択的に阻害する。ファビピラビルは、in vitroで新型コロナウイルスの抑制効果が認められており、中国で臨床試験が実施されているほか、国内でも観察研究が進行中
リン酸クロロキン「Resochin」(日本未承認)ドイツBayer社マラリア感染症などクロロキンは、in vitroで新型コロナウイルスの抑制効果が認められている。中国で臨床試験が実施されている
レムデシビル米Gilead
Sciences社
(エボラ出血熱)Gilead社は、レムデシビルが抗ウイルス作用を示すメカニズムを開示していないが、これまでの研究から、ウイルスのRNAポリメラーゼを阻害することなどが報告されている。中国など複数の国で臨床試験が実施中。国内でも医師主導治験などが行われる見通し
ロピナビル・リトナビル「カレトラ」米Abbvie社HIV感染症HIV-1に対するプロテアーゼ阻害薬。コロナウイルスに対する作用機序は明確になっていないが、ロピナビルはin vitroでMERS-CoVの抑制効果が認められている他、動物モデルでも予後改善効果があった。中国などで臨床試験が実施中。日本では観察研究が進行中
WHOや関連学会、臨床試験登録サイトなどの情報を基に編集部で作成。このうち、現状で中国や米国で複数の臨床試験が積極的に実施されているのは、レムデシビルとロピナビル・リトナビルだ