竹田さんは、ライフサイエンス分野における日本人のベンチャー投資のパイオニアの一人にして、第一人者でした。

 彼に出会ったのは、彼が田辺製薬(現田辺三菱製薬)で約10年、日本での勤務やアメリカ駐在を経て、米国のKellogg経営大学院でMBAを取得した後のことでした。NIFベンチャーズ(現大和企業投資)にて、2002年に主に欧米に投資をするチームに同僚として入社しました。

 当時、製薬会社での勤務経験があり、ライフサイエンス分野に投資をする日本人のベンチャーキャピタリストは少なく、その中でも創薬に絞って投資をしているキャピタリストはほとんどいなかったと記憶しています。2000年に発足したチームでしたので、各地で足掛かりが無い中、持ち前のネットワーク力を発揮し、投資を実行していきました。また、厳しい審査を勝ち抜き、米国において優秀なベンチャーキャピタリストだけが参加できる米Kauffman Fellowsの教育プログラムに、日本人として初めて選ばれました。

 07年末に独立系のベンチャー投資ファンドの運営会社を一緒に立ち上げました。Fintech Global Capital(FGC)です。当時の独立系ベンチャーキャピタル(VC)としては大型となる60億円のファンドを、出資者のご協力の下、組成することができました。彼はここでも多くの会社へ投資を導き、それらの会社は成功裏にパートナリングをしたり、IPOまたは買収されたりしました。

 同じく07年にライフサイエンスの大手VCである米Sofinnova Ventures社に参画しました。現在でもそうですが、当時日本人がアメリカのVCに採用されるのは珍しいことだったのではないかと思います。持ち前の愛嬌とフットワークの軽さで、日本だけにとどまらずアメリカの主要なVCや企業のCEOの間でもとても強いネットワークを築き上げました。

 どのような創薬会社の技術が成長し、またどの製薬企業がその技術に興味を持つかを理解しており、FGC社/Sofinnovaの投資先だけでなく、他のVCの投資先にも日本の製薬企業を紹介するなどして積極的に協力しました。その活動の1つが、ソフィノバ・ジャパン・バイオファーマカンファレンスの主催です。このカンファレンスは日本の製薬企業へ海外企業とのライセンス機会を提供することを目的として、年に一度東京で開催されています。

 今年で12年目を数えるカンファレンスは今では参加企業約100社、参加者約300人の日本で最も大きなバイオカンファレンスの1つに成長しています。ここまで長く続くイベントになるとは竹田さん本人も想像していなかったようで、10年目のイベントを迎えたときは本人が一番驚いていました。お客さまからネットワーキングの天才とお褒めいただいたこともある彼だからこそなし得た功績だと思います。

 また、彼は思いっきり人生を楽しんでいて、どれだけ忙しくても大事な家族との時間を大切にし、テニスをしたり仲間と釣りに出掛けたりしていました。FGCやSofinnova社のチームは彼のためならどんなことでもしますし、彼も同じように思ってくれていたと思います。

 2014年ごろから、竹田さんは日本とヨーロッパをつなぐライフサイエンスに特化したベンチャーキャピタルを創設することを考え始め、2017年に 創業者の一人としてベルギーNewton Biocapital社を設立し、現在、東京とブリュッセルにオフィスを構え、順調に運営が行われています。

 柔らかい語り口でありながら、根気強い先駆者である竹田さんは、ライフサイエンスにおける国際的なアプローチを日本のベンチャーキャピタルに持ち込んだ大きな功績があります。私たちが彼を、一人の類いまれなる素晴らしい友として、これからもずっと忘れることはないでしょう。

 【編集部注】日本のバイオベンチャー投資をけん引されてきたFintech Global Capital/Sofinnova Venture Partner社/Newton Biocapital社の竹田悟朗氏が、2018年12月23日、逝去されました。享年51歳。竹田氏と親交の深かった皆さまに追悼文を寄稿していただきました。