寄稿、新井賢一先生を偲んで

(2018.04.18 08:00)
小澤敬也=自治医科大学名誉教授・客員教授、東大医科研前病院長
2018年1月に開催されたThe 5th IMSUT-CGCT Symposiumであいさつする新井先生
画像のクリックで拡大表示

 新井先生の悲報はあまりにも突然に届きました。直前までお元気にされていただけに、今でも信じられない思いです。

 私は米国立衛生研究所(NIH)への留学から帰国した1987年に東京大学医科学研究所に採用され、7年間勤めた後、約20年間自治医科大学で働き、定年(65歳)までの最後の4年間をまた東京大医科研に奉職しました。いずれのときも新井先生には大変お世話になりました。

 最初は、病態薬理学研究部において高久史麿教授(兼任)の時代に講師、浅野茂隆教授の時代に助教授を務めましたが、当時は、造血因子とその受容体の研究が大変華やかな時代で、浅野先生が推進されていたG-CSFの基礎的・臨床的研究に私も参加させていただきました。同じ造血システムに関わる研究ということで、新井先生の研究グループとも近い関係にあったように思います。

 当時、新井(Arai)先生と浅野(Asano)先生は“AAコンビ”と呼ばれており、その圧倒的なパワーは医科研内外に鳴り響いていました。ちなみに、中村祐輔先生を加えた3人組は、全日空(ANA)トリオとして畏怖されていました。

 新井先生が医科研所長になられたのは私が自治医科大に異動してからですが、医科研組織の大改革を断行され、新井先生の考え方は今も医科研の基本理念として受け継がれています。また、東京ゲノム・ベイ計画を打ち出され、世界的な研究拠点の構築に尽力されたわけですが、大変インパクトのある大構想でした。現在、川崎市の殿町地区に大きな研究拠点が開発されつつありますが、新井先生の構想がベースになったのではないかと思われます。

 新井先生は医科研をこよなく愛され、退職されてからも、医科研のすぐ近くにオフィスを構え、医科研所長室を度々訪問されていました。私は2014年に病院長として医科研に戻ってきましたが、所長室で新井先生の大構想を度々拝聴させていただきました。そのエネルギーと情熱に大きな感銘を受けたことを思い出します。

 私が医科研に戻ってきた際、当時の医科研所長の清野宏先生にお願いして、遺伝子・細胞治療センター(CGCT:Center for Gene & Cell Therapy)を設置していただきました。概算要求が通らなかったために、納得のいく活動はできませんでしたが、新井先生にはCGCTについても応援していただきました。特に、2017年6月のThe 4th IMSUT-CGCT Symposiumには、新井先生のご関係で来日したアジアの研究者に大勢参加していただくことになり、企画から運営まで大変お世話になりました。

 さらに、私の退職記念のつもりで本年1月に開催したThe 5th IMSUT-CGCT Symposiumでも、力の入ったごあいさつを頂きました。3月には私の最終講義にもご出席いただきましたが、そのときに医科研講堂の2階席で少しお話ししたのが、私にとって新井先生との会話の最後になろうとは夢にも思いませんでした。

 新井先生は若手を鼓舞するのが大変お上手であり、その結果、新井ワールドに引き込まれていった研究者が大勢いたのではないかと思います。また、新井先生は基礎研究者ですが、実用化研究にも大変関心をお持ちで、医科研附属病院の良き理解者でもありました。

 造血システムに関するご研究で輝かしい足跡を残され、多くの優れた研究者を世に送り出し、医科研の発展に多大なご貢献をなされた新井先生の存在の大きさを思い起こし、あまりにも突然に旅立たれたことは残念でなりません。いつも私共後輩を激励し、温かく見守ってくださったことに感謝し、新井先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

 【編集部注】東京大学医科学研究所所長、SBIバイオテック社長などを歴任された新井賢一氏が、2018年4月9日、逝去されました。享年75歳。新井氏と長年親交のあった東京大医科研前病院長で自治医科大の小澤敬也名誉教授に寄稿していただきました。

日経バイオテク お薦めの専門書籍・セミナー

  • 「世界の創薬パイプライン2018/2019」
    海外ベンチャーの創薬プロジェクトを大幅拡充。自社の研究テーマと関連するパイプラインの動向、創薬研究の方向性や競争力、開発状況の他社比較に有益なデータとして、自らのポジショニングを確認できます。
  • 新刊「日経バイオ年鑑2019」
    この一冊で、バイオ分野すべての動向をフルカバー!製品分野別に、研究開発・事業化の最新動向を具体的に詳説します。これからのR&D戦略立案と将来展望にご活用ください

PR・告知製品・サービス一覧人材・セミナー・学会一覧