これまで、日経メディカルでは医師のキャリアとして転職や開業について紹介してきた。他に起業というキャリアパスもある。医療・ヘルスケア分野を中心としたベンチャーへの出資を手掛けるベンチャーキャピタル(VC)のBeyond Next Ventures(東京都中央区)。同社で医療領域への投資を担当するキャピタリストで執行役員の橋爪克弥氏に話を聞いた。

橋爪克弥(はしづめ・かつや)氏
橋爪克弥(はしづめ・かつや)氏
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ジャフコ入社。入社後10年間、一貫して大学発ベンチャーへの出資に従事。2020年にBeyond Next Venturesに入社。出資先はリバーフィールド、Biomedical Solutions、NOVENINE、OPExPARK、Olive Unionなど。現在は医療機器、デジタルヘルス、エレクトロニクスなどへの出資を行いながら、技術系スタートアップ経営者のナレッジシェアを目的としたBNV Fireside Chatを主宰している。

医師の起業について、近年変化を感じることはありますか。

橋爪 以前から医師の起業はあったが、2014年にメドピアが上場するなど成功事例が出てきたことで潮目が変わった。昔との一番の違いは、医師がいて、ビジネスを担う事業開発の担当者がいて、とチーム体制がきちんとできていることだろう。

 起業する世代としては、20代をはじめとする若い医師が手掛けるインターネットサービスが多かったが、現在は専門医を取得した後に30代から40代の医師が起業するケースが増えている印象だ。臨床医が、自身が専門とする領域の課題を見つけて、その解決のために起業しているのが目立つ。

 その背景にはアプリやソフトウェアを開発するハードルが下がり、人工知能や機械学習などの活用も身近となり、医師が自分の臨床上の問題を解決しやすくなっていることもあるのではないか。例えばAIメディカルサービスは、社長の多田智裕氏が内視鏡専門医だからこそ現場の課題に気付いたのだろうし、システム開発に必要な内視鏡画像を多く集められるのだろう。2017年、2018年くらいから医師が自身の専門性を生かした起業が増えてきた印象がある。

 また、以前は医師に限らず、大学の教員が前面に出て、研究室の延長のように起業するケースが少なくなかった。そのような会社では、製品ができず、売れず、資金も集まらなかった。だが、しっかりとしたマネジメントチームを入れた企業が徐々に成功してきた。そして、それを近くで見た後輩医師の起業につながっている。例えば、メドレーで執行役員として勤務後にAIを活用した医療機器を開発するアイリスを創業した沖山翔氏、CureApp社長の佐竹晃太氏、OPExPARK社長の本田泰教氏は日本赤十字社医療センターでの勤務を通じたつながりがある。

起業時からチーム体制を作ることができるようになったのはなぜでしょうか。

橋爪 エンジニアたちも、自身や親族の体験などを通じてヘルスケアに対する関心は高い。だが、彼らが生物、化学、機械などの知識が必要とする創薬や医療機器の実用化を目指すベンチャーで活躍するのは難しかった。AIやアプリ、モバイルなどの技術がヘルスケア領域で用いられるようになったことで、そのハードルが下がった。また、製薬企業や医療機器メーカーの事業開発の担当者も、「薬だけで治療を行うのは難しい時代」としてベンチャーに転職するキャリアを選ぶケースが増えている。

 投資家の立場としてもヘルスケア領域は魅力だ。mRNAワクチンのような新しい技術を用いたものが出てきたり、スマートフォン、5Gなどとりまく環境も変わっている。変化が起こるタイミングで、新しいチャンスが生まれやすく、ベンチャー企業が参入しやすい。

どのような医師が起業向きなのでしょうか?

橋爪 起業に必要な要素を持っている医師は多い。特に救急や外科系の医師は、限られた時間、限られた情報の中で判断して動いていかなければいけない。その意思決定の力や、他職種と連携しながらリーダーシップを取っていくところは経営にも似たところがある。

 ただ、医師は医学に関する専門性は高くても、ビジネスでは事業開発やファイナンスといった違う知識を身につけていく必要がある。それらの知識を持った人にきちんと助言を求めて、それを取り入れられる柔軟さが必要だ。「私が言うことは正しい」といった、やや柔軟性に欠ける医師はなかなかうまくいかない。うまく軌道に乗っているベンチャーの経営者は極めて低姿勢で、人からいろいろと吸収しようとする姿勢を感じる。そのようなことが大事なのではないか。

医師が起業する年齢に今後変化があると思いますか?

橋爪 30歳代、40歳代がメーンとなる状況は変わらないのではないか。肌感覚ではあるが、開業よりも少し早いくらいのタイミングで起業するケースが多いのではないだろうか。我々は起業の理由を必ず聞いているが、医師に多いのは「臨床医を続ける中で、目の前の課題を、テクノロジーを使って解決する方が面白いし、自分の手の届く範囲以上の患者を救うことができる」というもの。自分が直接関わる患者以外も治療できるというのが多い印象だ。

 大きな社会的な問題よりも、自分が日々の臨床で見つけた「ここができそうなのに」「こんなものがあれば」という課題を見つけているということ。それができるようになったのが、ソフトウェア、IT系のテクノロジーの進化のおかげだ。

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