クロスヘルスEXPO

令和の今、PCR装置を開発するコニカミノルタのBICな心意気

ウンチを引っかいて15分後には腸内細菌を解析できちゃうイノベーション
(2019.10.10 08:00)
坂田亮太郎

 イノベーションを起こすには高い技術が必要か──その答えは「YES」であり、「NO」であろう。2019年10月9日から11日に東京ビッグサイトで開催された「クロスヘルスEXPO2019」(主催:日経BP)の会場で、そんなことを考えさせられる製品を目の当たりにした。コニカミノルタが大便サンプルから直接、腸内フローラ(細菌叢)を解析できる装置を開発したという。使っている技術を聞いて、2度驚いた。今さらPCRというのだ。しかも複合機屋さんのコニカミノルタが、ライフサイエンスという飛び地でビジネスを展開しようとしている。混乱した頭のままブースで話を聞いて、最後には「なるほど」と膝を打った。

快便を求める道は、遠く険しい

 腸内にびっしりと生息している細菌の群衆を叢(くさむら)に例えて、腸内細菌叢(腸内フローラ)と呼ぶ。フローラは鼻腔や口腔の内部、皮膚表面、そして膣内などにも存在しており、免疫力のバランスを保ったり、病原菌の侵入を防いだりしている。

 腸内フローラのバランスが悪いと健康に影響を及ぼすことは、一般的にもかなり知られるようになってきた。そんなことは言われなくたって毎朝トイレに行けば分かる、という方も多いだろう。おなかの弱い人にとって、快便を求める道は、遠く険しい。「効く」と評判のヨーグルトなどは片っ端から試してみたものの、効果はあったような、なかったような…(個人の感想です)。そもそも腸内の状況は目には見えないので、摂取した製品が本当に自分に合っているかどうかも分からない。そんな悩みを抱えている人は、男女を問わず多いのではないだろうか。

 数百兆個もの腸内細菌叢を調べる手法としては、次世代シーケンサー(NGS)を用いて網羅的に解析するのが最先端とされている。ただ、調べたい腸内細菌が決まっていれば、PCRというクラシカルな手法もある。PCRを使った受託解析サービスは既に複数の事業者が提供している。検便キットを使って自分の便を宅配便で送り、数万円の費用と1カ月以上の期間を費やせばデータは入手できる。ただ、健康状態が刻々と変わる中で、誰でも、簡単に、しかも迅速に、腸内フローラを調べたいというニーズがあるはず。そんな仮説の下に開発されたのが、コニカミノルタの「Pon Pon CODE」だ。

コニカミノルタの甲田大介氏(ビジネス イノベーション センター ジャパンのインキュベーションリード)。突っ込む前から「Pon Ponは『おなか』のことですよ」と説明してくれた。左が今回初披露となった「Pon Pon CODE」の試作機

遠心力を使ってDNAを迅速に増幅

 ベースとなったのは、大阪大学大学院工学研究科助教の齋藤真人氏らが開発したPCR技術「μオーシャン」だ。ライフサイエンス系の研究施設であれば、PCRは最も基礎的な実験手法だ。科学好きの高校生でも手軽に使えちゃう技術といえる。ただ、一般の人からすればPCRは身近なものではない。ピペットマンを使ってマイクロリットル単位で試薬を分注し、プライマーの設定にも一定以上の知識が必要だ。要するに、白衣を着た生化学系の研究者を除き、PCRはまだまだ“遠い”存在なのだ。

 そこにブレークスルーのチャンスがあると捉えたのが、コニカミノルタと大阪大学の共同研究チームだ。2017年4月から共同で開発を始め、2年半かけて試作機を完成させた(今回のクロスヘルスEXPO2019で初めて展示)。正式な販売時期は決まっていないが、2020年の夏ごろまでに商用サービスを始めたいとしている。1回の検査費用を数千円レベルに引き下げることを目指している。

 どれくらい簡単に定量PCRができるかは、こちらの動画を見てもらうのが1番だ(5分39秒)。検便と同じように細い棒に便を付着させ、それをチューブに入れるだけ。試薬類は全てチューブ内に入っており、撹拌やDNA増幅反応などはすべて機械が自動で操作してくれる。パソコンさえ使えれば、小学生でも可能だろう。

 キーとなるのはマイクロチップだ。毛細管現象と遠心力を利用してマイクロ流路内でDNAの増幅反応が迅速に進む。その結果、サンプルをセットしてからわずか15分で定量PCRが可能となる(DNAの増幅するための温度の上げ下げを遠心力を利用して実行するアイデアは秀逸なので、ぜひ動画をご覧ください)。1枚のマイクロチックには12種類のプライマーがセットできるので、腸内で調べたい菌種を決めておけばその量をすぐに定量化できる。

左の白い部分でサンプルを撹拌して、右側の回転部にセットするとDNAの増幅反応が進む

社会実装に向けてニッポンジーンやメタジェンなどと協力

 話を一通り聞いて感じたのは、PCRという極めてクラシックな技術でもイノベーションは起こせるのだという新鮮な驚きだった。PCRは白衣を着た研究者がやるものという先入観さえ取っ払えば、PCRという汎用的な技術を生かせるフィールドはたくさんある。装置の大きさは大型の炊飯器程度。このサイズなら、いろんなところに置けそうだ。何しろ自分の便を細い棒で突っついて、装置にセットすれば15分で目的の微生物の量が把握できる。この簡便さは驚愕に値する。

 課題はビジネスモデルの構築だ。コニカミノルタでは、薬局などでの健康相談やアスリート向けのパフォーマンス管理に活用することを想定している。ただ、それだけではスケールアップは難しいだろう。機能性食品の大規模臨床試験や環境DNAの検査に使えるようになれば、新しい需要を喚起できるかもしれない。この技術を社会に実装していくために、コニカミノルタはニッポンジーンやメタジェンとなどと協力していくという。

 そもそもこのビジネスを主導するコニカミノルタの組織はかなり変わっている。甲田氏も所属するBUSINESS INNCUVATION CENTER(略称BIC)は2014年に設立された新規事業開発部門だ。複合機などコニカミノルタの既存領域以外の分野で、オープンイノベーションを仕掛けていく部隊なのだが、扱っている商材が相当アグレッシブだ。オンライン英会話学習サービスや橋梁検査のためのIoTデバイス、そして月経周期をモニタリングするツールなど端から見ると何の一貫性も見いだせない。正直に申し上げれば「大丈夫なのか?」とさえ感じるが、大企業に変革を起こすにはこれぐらい思い切ったことをしなければならないのだろう。むしろ、コニミノ経営陣の不退転な決意を感じるほどだ。

 イノベーションを起こすには高い技術が必要か──冒頭の問いに対して、今回の答えは「NO」だ。PCRもマイクロ流路も、最先端のハイテクとはもはや言えない。それでもオーソドックスな技術を組み合わせることで画期的な技術やサービスを生み出せることを「Pon Pon CODE」は証明している。枯れた技術での革新は起こせると聞くと、おじさんもやる気になる。少なくとも私はそうだ。

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