1カ月ぶりにGreenInnovationメールでお目にかかります、日経バイオテク編集の河田孝雄です。原則として第4木曜日のGreenInnovationメールを担当しております。

 まずはお詫びを申し上げます。読者からご指摘をいただいたのですが、日経バイオテクのメルマガに関連して、間違った情報が一部で流れていますので、事実を説明します。

 米DowDuPont社のSPTトウモロコシの話題です。日経バイオテクでは報じられていないという情報が一部ありますが、日経バイオテクにて何度も報道していますので、このメールで改めてご案内します。

 報道実績の例として、半年前の当メルマガと、4年前の日経バイオテクの特集記事を紹介させていただきます。前者のメルマガは全文をご覧いただけます。後者の特集記事は読者限定ですが、お読みいただくことを期待します。

(2018.05.24)
【GreenInnovation Vol.356】
再度、生物多様性やカルタヘナ法、外来種について 昨日の理研の宮脇敦史さんの講演でも言及ありました
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/mag/greenmail/18/05/23/00081/

日経バイオテク2014年11月10日号「特集」
「カルタヘナ法」カタルシス
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20141111/180333/

 お詫びの次は、ベンチャー企業のユーグレナの話題です。

(2018.11.19)
業界こぼれ話
ユーグレナのピボット戦略
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082300015/111500105/

 ユーグレナは、藻類の培養により、太陽光のエネルギーを利用して液体燃料を生産する技術の実用化を進めています。

 日経バイオテクでたびたび指摘してきましたが、ユーグレナがこのプロセスの「エネルギー収支比(EPR)」を開示できていないことは、大きな問題だと改めて指摘しておきます。3年半前のこのメールマガジンをぜひ、ご覧ください。

(2015.5.29)
【GreenInnovation Vol.284】
燃料生産向けの微細藻類の屋外培養が進展、今週は北九州、先週は鹿児島で取材
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150529/185230/

 生産コストを100分の1に下げることを目指すという今回のユーグレナ発表の信ぴょう性は“ハテナ”です。生産技術革新とスケールアップによりコストを100分の1に下げるには、現在の原材料費比率が1%の場合で、プロセスコストを現在の99を0.5に下げて、原材料費を半分の0.5に下げることが必要と計算できます。あるいは現在の原材料比率が10%の場合は、プロセスコストを90から0.5に下げて、原材料費を20分の1の0.5に下げれば、100分の1を達成できますかね。

 いずれにしろ、液体燃料を生産するために投入する(消費する)エネルギー量が、生産できる液体燃料のエネルギー量よりも多ければ、エネルギーを生産していることになりません。EPRは、生産したエネルギー量が分子で、投入したエネルギー量が分母の比率です。EPRが1を超えれば、エネルギー生産として意味がある。“プラス”という意味合いになります。

 改めて説明しますと、太陽光エネルギーは、投入エネルギーにはカウントしません。赤道直下や日本でも南の地域ほど、豊富にあり有効利用されていないエネルギーが有り余っているからです。ですから、赤道付近など太陽光エネルギーが豊富な場所で、太陽光発電で生産した電力を用いて、藻類により電力エネルギーを液体燃料エネルギーに“変換”する、というのは意義が大きいとは思います。電力と液体燃料では、同じエネルギーでも、使い道が異なります。ジェット機にジェット燃料替りに蓄電池を載せるのは現在の科学技術では困難かと思います。ただし、エネルギーを作り出す、“生産”するというのはまた別の話です。

 2018年3月に、ちとせ研究所代表取締役の藤田朋宏さんが分かりやすい解説をまとめていますので、ぜひご覧ください。おすすめです。

https://chitose-bio.com/cl/news/491/

 さて、最後に欧州のゲノム編集規制動向のアップデートです。

 欧州委員会(EC)の主席科学顧問(Chief Scientific Advisors)グループが2018年11月13日、ゲノム編集技術で育種した作物を遺伝子組換え作物(GMO)規制の対象にするという判断を2018年7月末に欧州司法裁判所が判断したことについて、科学的な展望を発表しました。このままでは、技術革新から欧州が取り残されてしまう、という危機感を表明しているように思います。

 11月16日に都内で開かれた会議にて、千葉大学環境健康フィールド科学センター特任教授の笠井美恵子さんが「ゲノム編集技術による育種の現状と今後の見通し」と題した発表の中で、欧州が変わっていくかもしれない、という期待感を表明しました。この会議は、アメリカ大豆輸出協会(USSEC)が開催した「2018年アメリカ大豆バイヤーズ・アウトルック・コンファレンス」です。笠井さんは、米DowDupont社を2017年末に退社なさり、2018年4月から千葉大に勤務なさっています。

 欧州では移民問題も大変なようですが、ドイツが原子力発電所を廃止する一方でフランスの原子力発電所に電力の一部を依存している、といった構図があるなど、日本とは環境が異なります。GMO作物の規制についても欧州のやり方があるわけですが、欧州におけるGMOの科学的ではない規制による悪影響は、日本の企業にも及んでいます。

(2017.12.15)
米国製「カップヌードル」、ロシアで回収命令
大豆の組換え比率が0.9%以上なのに表示無し
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/17/12/14/03632/

 何とか現実的な路線へと改善してもらいたい、と思っております。地球上の資源は有限ですので、無駄はできるだけ減らしていきたいものです。非関税障壁というのは常に政策上で必要な場合はあるとは思いますけれども。

 非GMO作物の流通を検証する方法としては、科学的な方法と、社会的な方法とがあります。ゲノム編集育種作物の多くは、GMO作物のように科学的検証を行うことが困難です。せめて、社会的な方法を、現実的なものにしていくべきでは、と思います。

 農作物の多くを輸入に頼る日本の場合は、水際検査ができないものに規制を設けるのは得策ではないように思います。非関税障壁にするのも困難かと思います。このような状況下で、実質的に国内にだけ通用する厳しい規制にすると、日本における企業活動の国際競争力が大きく損なわれます。科学的に検証ができないため、科学技術力に長けた責任ある企業は規制を守るのでしょうが、その一方で、広い抜け道を通る企業も多くなっていくように思います。

 日本国内はもちろんのこと、欧州などの動向も引き続き、日経バイオテクの記事に反映してまいります。

 世界中の食塩の多くから、マイクロプラスチックが見つかったと韓国の研究グループが発表したようです。魚だけでなく、同じく海の幸である海水由来の食塩もですか、と驚きました。心配なら岩塩を、ということでしょうか。海洋深層水は太古の水なので、清浄度が高い、というのと同じ意味合いですかね。

 天然塩の多くからは、DNAが検出されることも改めて指摘しておきます。食塩は、数多くの食べ物・食材の中で、生物由来でないものが多い珍しい存在です。が、DNAの高感度検査技術が確立された現在では、DNAが容易に検出されるようです。

 海水のDNA分析で、その地域の生態系を構成する生物を調べる、という技術も飛躍的に発展しております。塩のDNA解析で、塩の生産地が分かりそう。現地でも、英Oxford Nanopore社製のDNAシーケンサーを活用できます。もっとも元素解析による産地特定のほうが簡単そうですが。同位体元素の解析に比べれば、DNA解析は既に安くなっているような気はします。

 最後に、このような生態環境系のDNA解析も受託している企業が、相次いで、トヨタ自動車のDNA解析技術「GRAS-Di」のライセンスを導入していることも、昨日(2018年11月21日)、日経バイオテクにて報じました。

(2018.11.21)
トヨタ、DNA解析技術「GRAS-Di」のライセンスをJTに供与
受託解析企業数社への供与に続く
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/11/20/05016/

 植物の育種に活用するライセンス供与先の第1号が、日本たばこ産業(JT)というのは興味深いですね。というのも、米Broad Instituteがゲノム編集ツールCRISPR/Casの使用を認めている対象植物から、タバコは除外されているからです。健康に大きな害を及ぼすタバコの育種に、CRISPR/Casを使用するのは許さない、という意味合いと聞いています。