1カ月ぶりにGreenInnovationメールでお目にかかります、日経バイオテク編集の河田孝雄です。原則として第4木曜日のGreenInnovationメールを担当しております。
 今回は、今週月曜日(2018年8月20日)に方向性が固まった、環境省の「カルタヘナ法におけるゲノム編集技術等検討会」の話題を提供します。

 8月7日開催の第1回の議論の内容は、その翌日に報道しました。

(2018.8.8)
環境省、カルタヘナ法ゲノム編集検討会の第1回を開催
座長は大澤良・筑波大教授、RNAから逆転写で合成されるDNAの議論も
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/08/08/04574/

 そして8月20日開催の第2回で、検討会としての検討結果がまとまりました。

 第1回の検討会では、「細胞外で加工した核酸およびその複製物」が、最終的なゲノム編集育種生物に含まれないことを確認できた場合には、当該のゲノム編集育種生物は、カルタヘナ法の対象外とするという方向性が決まりました。

 これを受けて第2回の検討会では、このカルタヘナ法対象外の生物の取扱い方針の方向性が決まりました。

 「拡散防止措置」が取られている環境で使用する場合は、所管省庁への情報提供は不要です。

 「拡散防止措置」が取られていない環境で使用する場合は、所管省庁に次の情報を提供することが求められます。

(a)カルタヘナ法に規定される細胞外で加工した核酸又はその複製物が残存していないことが確認された生物であること

(b)改変した生物の分類学上の種

(c)改変に利用したゲノム編集の方法

(d)改変した遺伝子及び当該遺伝子の機能

(e)当該改変により生じた形質の変化

(f)(e)以外に生じた形質の変化の有無(ある場合はその内容)

(g)当該生物の用途

(h)当該生物を使用した場合に生物多様性影響が生ずる可能性に関する考察

 の8項目です。

 このうち、8番目の「生物多様性影響が生ずる可能性に関する考察」が、どの程度の内容を求められるのかが、懸案になるかと思います。

 検討会の第1回の議論で、ゲノム編集で育種する生物がウイルスや微生物などの場合、生物多様性影響としてウイルスや微生物の関連で何をチェックすればよいのかが、明確になっていないのでは、という委員の指摘がありました。「微生物における生物多様性の影響評価はほぼできないことが明確になっている」といった旨の発言もありました。

 いずれにしましても、ゲノム編集技術を用いて育種された生物(ウイルス、微生物、藻類、農作物、家畜、魚など)の取扱いを明確にしておくことは、ゲノム編集技術の産業界での実用化、社会実装に不可欠かと思います。

 まずは、工場内で物質生産する発酵産業的な利用の場合は、拡散防止措置を取りやすいので、実用化が進めやすくなるかと思います。

 この物質生産を目指した技術開発の成果としては、花王や日本触媒の取り組みを報道したことがあります。

(2018.3.22)
花王、相同組換えで糸状菌の有機酸生産性を向上
広島大と共同のゲノム編集TALEN技術を活用
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/03/22/04016/

(2017.3.16)
日本触媒と神戸大、ゲノム編集TargetAIDでブタノール発酵の収率向上
農芸化学会で発表へ、産業界のTargetAID活用発表は初
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/17/03/15/02453/

 また、農作物の栽培や魚の養殖など、拡散防止措置を取ることによるコスト負担が事業の採算性を損なう産業では、実用化には事実上、上記8項目の情報提供が必要になります。

 育種を進める最初の段階では、拡散防止措置を取った施設内で行うかと思います。この段階では情報提供は不要です。この段階で、上記8項目の8番目の「生物多様性影響が生ずる可能性に関する考察」に資するデータを取得するかと思います。ですので、この考察として、どのくらいのレベルのものが求められるのか、がとっても気になります。

 ゲノム編集関連の新技術を昨日、報道した件についても紹介します。

(2018.8.22)
広島大、ゲノム編集DSB後修復の精度を向上するLoADシステム
選択圧無しで標的部位への遺伝子挿入を複数個同時実現は世界初
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/08/21/04619/

 2018年6月の日本ゲノム編集学会第3回大会の記事で少し紹介した新技術です。

 ゲノム標的部位の2本鎖DNA(オンターゲット)を切断した後の、修復過程の精度を高める取り組みの成果です。

 カルタヘナ法の対象外となるゲノム編集育種生物の代表は、標的遺伝子の機能を破壊したノックアウト(KO)生物です。実験動物としては広く利用されていますし、魚などでも実用化段階に近いものがあります。

 実はこのKO生物作製は、標的遺伝子の2本鎖DNAを切断された生物が、2本鎖DNAに戻す際に塩基配列が元通りにならない修復工程のミスを利用するのですが、修復工程そのものの精度は高くありません。生物の種類や細胞株によって、どんな修復工程で修復されるかは、“いきあたりばったり”“バイチャンス”でも、KO生物は高効率で取得できます。

 しかし、ゲノム標的部位の塩基配列に目的の変化を引き起こすためには、修復工程の精度を向上することが重要です。

 オフターゲットを切断しないための精度向上と、オンターゲットの修復工程の精度向上とは別物かと思います。

 ゲノム編集技術に関連して報告されている懸念の中には、修復工程がバイチャンスであることに起因するものが多く含まれるように思います。

 ヒトなどの真核生物の場合は、DNAの2本鎖切断という緊急事態をすぐに回避するため、多くの修復システムを持っています。非相同末端結合(NHEJ)と、相同組換え(HR)の2種類がメインですが、その他に、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)などもあります。

 広島大のLoADは、このMMEJが起こりやすいように、修復工程を制御するにより、ゲノム編集の精度を高めるものです。

 ゲノム編集技術のうち特に簡便な第3世代のCRISPR/Cas9は、農業や水産業にも革新を起こしているドローンと対比できます。

 オフターゲットを避けるということは、GPS(全地球測位システム)情報に基づいてドローンを適切な場所に届けることを意味します。ゲノム編集では、次世代シーケンサー(NGS)で解読したゲノムの塩基配列情報が、ドローンのGPS情報に相当しますね。

 ドローンで撮影した動画はよく見かけますが、ドローンで撮影する場合はドローンにカメラを付けます。

 このカメラ撮影にプラスαのシステムを加えると、農作物などの生育状況の把握に役立ちます。

 ドローンで農薬散布を行う場合は、ドローンに農薬散布に必要な装置を付けておくことが必要です。

 ドローンに付ける装置を工夫することにより、ドローンでいろいろな作業を行えるようになるし、その作業の内容の精度を向上できます。

 このプラスαの部分の技術開発が、ゲノム編集で急速に進んでいます。品質管理や精度向上、“カイゼン”に長けた国民性を持つ(と思われる)日本の研究グループが、目立った技術開発の成果を上げているように思います。

 ゲノム編集におけるバイチャンス標的遺伝子KOは、ドローンを用いた単純な撮影に相当するぐらい、平易なことになってきかように思います。同じKOでも、修復工程を制御してどのような塩基配列情報のKOにするかを精緻に制御する技術も開発されていて、精緻なKOも可能になっていることも付け加えておきます。

 また、オフターゲットを低減する取り組みでも、日本で顕著な成果が上がっているかと思います。論文の報道解禁(エンバーゴ)日時が過ぎてから、話題を提供してまいります。このオフターゲット低減は、GPS情報に基づいたドローン移動の精度を高める取り組みに相当するかと思います。GPS情報の精度向上は、NGSゲノム情報の精度向上に対応します。