【GreenInnovation Vol.359】

アグリバイオ最新情報【2018年6月】のハイライト

(2018.07.12 08:00)

アグリバイオ最新情報【2018年6月】のハイライト
     ISAAA日本バイオテクノロジー情報センター(NBIC)の冨田房男代表

 世界の人口が増え続けているところは誰もが承知しているところである。一方、農地拡大は生物多様性の保護、環境保全、気候変動などの見地から限界に近い状況にあることもよく知られているところである。しかしながら我が国では、これらの要因に対応する遺伝子組換え(GM)作物およびそれに由来する製品は、一般消費者が「不安」を感じるということで理解が進んでいない。特に北海道のようにいわゆる遺伝子組換え作物栽培禁止条例があるところでは、行政が正しい広報を怠っているがゆえにいまだに試験栽培すら行わないとしている。このようなことに対するニュースが出ているのでそれらをまず紹介しよう。

 食糧農業機関(FAO)のJose Graziano da Silva事務局長は、「私たちが食糧を生産している方法には、大きな課題がある。今日、世界はまだ50年以上前に始まった緑の革命の原則に基づいた食糧を生産しており、高価な化学物質を高い投入レベルで使用することにより、環境に高い負荷をかけていることである」と述べている。従って、彼は、全ての分野で生物多様性を保護することに焦点を当てることが「基本的概念」であると主張した。

 植物の遺伝的多様性は、より暑くて、より乾燥した環境に耐えることができる品種を生み出すために活用することができる。他方、農業上の生物多様性の損失は、食料安全保障にとって直接的リスクをもたらす。 FAOは、農業、森林、漁業の生態系への影響を軽減するために、農業分野の政策整備、自然資源の利用、絶滅危惧種の保護と保全、生息地、生物多様性の必要性を強調した。

 また、GM作物栽培による利益については、Graham BrookesとPeter Barfoot両氏が研究論文を執筆している。それによると、農業者レベルで、2016年には182億ドル、1996年から2016年の総計で1861億ドルという著しい正味経済効果が継続しているとのことだ。開発途上国の農業者が、その利益の大きな部分(52%)を受けている。利益の約65%は収量と生産利益に由来し、残りの35%はコスト削減によるものである。また、この技術は、4つの主な作物の世界的な生産水準の向上に重要な貢献をしているともいわれている。この技術は1996年に導入されて以来、2億1300万tのダイズと4億5000万tのトウモロコシを世界の生産に上乗せした。

 さらに、中国のGM作物の承認の遅れに伴うコスト試算が行われた。その結果、GM製品輸入のタイムリーな承認は、輸出業者と輸入業者の両方に利益をもたらすという。報告書は、「輸出業者の経済的利益を除いても農業者および関連産業の成長といった間接的な利点もある。農業者は、より少ない収入でより多くの収量を生み出し、気候の変化の条件にうまく適応できるGM種子を導入することにより利益を得る。一方で、輸入業者は、タイムリーな承認で、より多くの多様な食糧/飼料作物の入手可能性を確保し、安全で安定した食糧供給、消費者の選択肢の改善、一部の地域における食料価格の低下をもたらすことができる」としている。

 我が国ではGM食品の表示法が変わる方向にあり、その正しい理解が進むことを期待している。この問題は、どこでも程度に差があるが同じようなところである。この点に関連してマーケティングの専門家Sean Hingston氏とYork UniversityのTheodore Noseworthy氏は、一般消費者がGM食品の利点を理解していない理由を現地調査に基づいて明らかにし、GM食品のマーケティング戦略を提案した。彼らの記事はJournal of Marketingに掲載されている。
著者らは、GM食品に対するモラルに基づく反感が、一般消費者による利益の認識を妨げることを研究によって示した。この反感は、これらの製品を、人間が作ったものと位置付ける微妙な手掛かりを用いることで克服できるとしている。人間の開発したGM食品が有益であると一般消費者に認識してもらうためには、なぜそれが開発されたのかの理解を促すことで製品に対するモラルに基づく反感は減る。これにより、製品の購入意欲が高まることが予想される。この効果は、現場(制御された環境下と自然環境下の両方)、実験室での実験、およびオンラインでの消費者パネルの調査でも同様であった。この結果は、一般消費者がGM食物をそれが何のためであるか(開発者の意図がわかる)ように包装形態や販売戦略を変えることを示唆している。

 上記の論文で興味がある結論は、一般消費者の理解である。「有機栽培」、「自然農法」などがGM作物栽培よりも一面もてはやされているが、今我々が食べているものでヒトの手が入らないものはないことを理解していないのが大きな問題と私は思っている。どんな生物も我々人間に食べられるために存在しているのはないことを理解すべきである。全て人の意図をもって作られてできた製品(プロダクト)である。それを開発したヒトの意図を理解すれることが大事との意見はもっともと思う。

 GM作物以外では、中国でのGMブタが興味を引いた。ブタ飼養のために大量の飼料が無駄になっているのは、ブタが環境損傷を引き起こす主要栄養素の2つ、窒素とリンをうまく利用できないためである。これらの栄養素の過剰量は、動物の肥料を通じて環境に放出され、空気と水の両方を汚染している。ブタは、窒素とリンの主な供給源であるフィチン酸を分解する微生物酵素を持たず、非澱粉多糖と呼ばれる繊維の分解ができないため、これらの栄養素の有害な量を放出する。酵素は、β-グルカナーゼ、キシラナーゼ、およびフィターゼである。South China Agricultural Universityのポスドク研究者Xianwei Zhang氏が率いるグループは、3種の酵素をブタのゲノムに入れた。酵素は、ブタの消化器系に適合するように最適化され、それらはブタの唾液腺で特異的に発現し、フィチン酸と非澱粉多糖の消化を口から開始させた。飼養試験では、ブタがこれらのおよび他の重要な栄養素を消化することができ、結果としてそれらの排出を低下させることが示された。チームはまた、動物の栄養素摂取量の増加がより速い成長率をもたらし、負の副作用がないことを報告した。

世界
FAO、農業に生物多様性保全の考えを取り入れることを要請
世界種子会議は遺伝学の力を利用するための産業政策に焦点
1996年から2016年までの遺伝子組換え作物技術の農産物収入と生産への影響が判明

南北アメリカ
一般消費者がGM食品の利点に目を向けない理由をマーケティングの専門家が指摘

アジア・太平洋
中国の遺伝子組換え作物の承認の遅れに伴うコスト試算

ヨーロッパ
ヨーロッパとフランスの研究は、SERALINI氏の遺伝子組換え/GMトウモロコシに関する主張を否定

研究
タロイモの遺伝子がインディアンマスダードのアブラムシに抵抗性を付与

新育種技術
中国の研究者が除草剤耐性スイカを開発
作物バイテク以外の話題
穀物消化に優れた遺伝子組換えブタ、養豚産業の環境への炭素放出影響を削減

国際アグリバイオ事業団(ISAAA)アグリバイオ最新情報【2018年6月】
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/column/16/082400010/070600024/

 毎月第2・第4木曜日に配信している日経バイオテクGreenInnovationメールに掲載している記者や専門家によるコラムを掲載します。

日経バイオテク お薦めの専門書籍・セミナー

  • 「世界の創薬パイプライン2018/2019」
    海外ベンチャーの創薬プロジェクトを大幅拡充。自社の研究テーマと関連するパイプラインの動向、創薬研究の方向性や競争力、開発状況の他社比較に有益なデータとして、自らのポジショニングを確認できます。
  • 新刊「日経バイオ年鑑2019」
    この一冊で、バイオ分野すべての動向をフルカバー!製品分野別に、研究開発・事業化の最新動向を具体的に詳説します。これからのR&D戦略立案と将来展望にご活用ください

PR・告知製品・サービス一覧人材・セミナー・学会一覧