1カ月ぶりにGreenInnovationメールでお目にかかります、日経バイオテク編集の河田孝雄です。原則として第4木曜日のGreenInnovationメールを担当しております。

 今回は、消費者庁の「遺伝子組換え表示制度に関する検討会」の話題をお届けします。2018年1月31日の第8回と、2月16日の第9回を傍聴しました。

 その前に、温州ミカンのゲノム解読の論文について、昨日、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)と国立遺伝学研究所がプレスリリースを出しました。比較すると面白いので、以下にリンクを示しておきます。論文タイトルは「ドラフトシーケンス」で始まります。遺伝研のサイトだとすぐ分かりますね。

※農研機構
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nifts/079775.html
※遺伝研
https://www.nig.ac.jp/nig/ja/2018/02/research-highlights_ja/20180220.html
 さて、消費者庁の検討会の議論の対象は、「食品」です。非遺伝子組換え(nonGM)の飼料を食べさせた乳牛から搾乳した牛乳が「nonGMミルク」として売られていることも議論の対象にすべきでは、という意見が第9回検討会で委員から出されましたが、現状は把握しておく必要はあるけれども、2017年度中(あと5週間です)に取りまとめる今回の検討会では範囲対象外です。次回、3月14日に開催予定の第10回で報告書を取りまとめます。

 第8回、第9回ともに、次の記事にて報道しております。

(2018.2.1)
組換え食品の表示、「組換えでない」の意図せざる混入率は5%を0%へ
「ハウス食品の『とんがりコーン』の表示は望ましいのでは」と名大の立川教授
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/01/31/03812/

(2018.2.19)
消費者庁の検討会、食品の「組換えでない」任意表示を厳格化
意図せざる混入率5%以下の呼称は3月14日の報告書案審議に持越し
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/02/19/03881/

 世界で初めて2001年に制度化された日本の現制度では、「遺伝子組換えでない」という任意表示を行うのに、遺伝子組換えのものの意図せざる混入が5%まで認められています。

 「『遺伝子組換えでない』表示を線引きは、この5%を0%(検出限界以下)に厳しくする」「5%と0%の間のものについては別途、どのような表示が良いかを考える」という方向性は既に決まりました。

 上記では「0%(検出限界以下)」と記載しました。消費者庁は、新制度へ対応できる定性分析法を公定法として新たに定める、と第9回検討会でコメントしました。

 この「検出限界以下」という表記は、さもありなん、と皆さん思われるでしょうが、検討会の議論などを聴いていて、この検出限界云々よりも、サンプリングの問題がとても大きいことを思い知りました。

 未承認の遺伝子組換え農作物などについては、国立医薬品・食品衛生研究所が開発したPCRのプライマーを用いたPCR法により、調べたい外来遺伝子の配列があるか、無いかを、調べる。ざっくり説明すると、サンプル20について検査して、そのうち19についてポジティブならば、統計的に有意にポジティブ(外来遺伝子を含む)、というような議論ができます。

 しかし、輸入される農作物について、承認された遺伝子組換え農作物が混ざっているかどうかを調べるときは、輸入農作物の量が多いため、サンプリングの問題が大きいのです。

 パナマックス船にてバラ輸送の形態で輸入されるIPハンドリングの非遺伝子組換え大豆・トウモロコシは、1船当たり1万tから2万tとのこと。トウモロコシ1万tに含まれるトウモロコシの粒数は285億粒。およそ3粒で1gくらいのようです。

 この膨大な粒の中から、どの部分を抜き出して検査するかにより、検査結果が異なることがあります。たとえば、IPハンドリングで流通したトウモロコシの中に微量のGMトウモロコシが混ざってしまっているとします。その混ざり具合は、決して均一ではなく「まだらもよう」です。

 輸入する前の港での検査と、輸入された後の日本での検査とで異なった結果となったということもあるとのこと。検査法は同じでも、サンプリングした部位・場所が異なる、というのが大きな要因になります。

 1つの品種に外来遺伝子が1セットのみ入った従来型の遺伝子組換え農作物の場合は、輸入されたロットの中から1kgをサンプリングし、そのうち500gをすり潰して抽出したDNAをPCR増幅して検査しています。500gは、トウモロコシだと1500粒ぐらいですかね。

 もしもすり潰して抽出したDNAが均一に分散されているとすれば、1500粒に1粒でも遺伝子組換えのものが含まれていれば、検出できる。ざっくり1000粒として、0.1%の混在も把握できると計算できます。

 しかしDNAを均一に分散させるという担保は大変そうです。

 また1つの粒に、複数の外来遺伝子が存在するスタック品種の場合には、外来遺伝子が2つあれば2倍のカウントになります。そこで粒単位検査法が、公定法として用いられています。全体すりつぶし抽出法に比べて、手間や費用は数十倍を超えるようです。

 また、5%混在までOKのルールでは、5%という閾値を超えているかどうかを、95%の信頼区間で特定する必要があるのですが、これがまた大変なことです。このあたりの事情は、1月31日の第8回検討会の記事にて、紹介していますので、ご覧ください。

(2018.2.1)
組換え食品の表示、「組換えでない」の意図せざる混入率は5%を0%へ
「ハウス食品の『とんがりコーン』の表示は望ましいのでは」と名大の立川教授
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/01/31/03812/

 今回の表示の議論は、およそ40年前に発明された遺伝子組換え技術(外来遺伝子を導入するゲノムの部位を特定するのは難しい)を用いて、およそ20年前から実用化されている遺伝子組換え農作物が対象です。蛋白質をコードする遺伝子をプロモーターと連結して、ゲノムにランダムに入るようにする。入ったところの悪影響が少なく、狙った形質の変化を確認できたものを、遺伝子組換え農作物として実用化しています。

 しかし、今後は、さらに大きな課題があります。「遺伝子組換え」の定義です。

 01年の時点から、次世代DNAシーケンサーの性能の飛躍的な発展もあり、「遺伝子」の定義もあやふやになってきています。

 規制すべき「組換え」の範囲も分かりにくくなっています。

 ナチュラルオカレンス(NO)、セルフクローニング(SC)は、そもそも遺伝子組換えの範囲外であり、従来は、NOやSCによる育種が実用化されていたのは、ゲノムサイズが小さな微生物にほぼ限られてきました。

 しかしCRISPRなどのゲノム編集技術が登場して、ゲノムサイズが大きな真核生物などでもNOやSCによる育種が可能になってきました。

 ゲノム編集により外来遺伝子を含まないように育種したイネは、標的遺伝子をノックアウト(KO)したイネの隔離圃場栽培が2017年春に始まり、2018年春からは標的塩基配列の塩基を置換したイネの隔離圃場栽培が始まります。

 しかしCRISPRなどのゲノム編集技術が登場して、ゲノムサイズが大きな真核生物などでもNOやSCによる育種が可能になってきました。

 ゲノムDNA塩基配列は変更せずに表現型を変えるエピゲノム育種も、ジャガイモについて2017年度から野外試験栽培が始まりました。

 いずれにしましても、遺伝子組換え技術を用いて育種した農作物・食品の表示制度を今後どうすべきかは、大きな課題といえそうです。