【GreenInnovation Vol.322】

化学発光で夜間に光る街路樹、研究段階カルタヘナ法第一種使用の学識経験者一部交代

(2016.12.22 08:00)
河田孝雄

 1カ月ぶりにGreenInnovationメールでお目にかかります、日経バイオテク編集の河田孝雄です。原則として第4木曜日のGreenInnovationメールを担当しております。

 今回は、大阪大学の「みどり≪適塾≫」の活動と、カルタヘナ法第一種使用等の学術経験者11人のうちの3人が交代した件に関する話題をお届けします。話題2つはいずれも、GreenInnovationメールでは中核テーマである生物多様性条約とカルタヘナ法に関するものです。

 みどり≪適塾≫は、大阪大学産業科学研究所教授の永井健治さんが塾頭を務めていまして、ホタルよりも100倍以上明るく光る化学発光蛋白質をはじめとした植物活用テクノロジーの実践を共に考える議論を、2016年秋から開始しました。

 「遺伝子組換え体が持つ様々な『社会的な誤解』とカルタヘナ法をどのように乗り越えることが可能か?」という課題解決を考える議論を行っています。

 2つ目の話題のカルタヘナ法第一種使用等は、「遺伝子組換え生物等の環境中への拡散を完全には防止しないで行う行為」を意味しています。研究開発段階での第一種使用等については、文部科学大臣と環境大臣が公表した名簿にある専門家からなる会合を開催して、学識経験者の意見を聴取します。

 2016年11月にこの学識経験者11人のうちの3人が交代しました。新任は、徳島大学生物資源産業学部准教授の刑部祐里子さん、香川大学農学部教授の加藤尚さん、鳥取大学乾燥地研究センター副センター長の辻本壽さんです。偶然でしょうが3人とも、中国四国地域の国立大学法人の研究者という点で共通してますね。来年早々にも開かれる見込みの会合では、弘前大学が開発したエピジェネ育種ジャガイモが議題になるのでは、と期待しています。

 さて、1つ目の話題に戻ります。

 みどり≪適塾≫は、2016年9月16日に開始したデザイン思考勉強会の第2回が、12月5日に大阪大学中之島センターで開催されました。

 まずは永井塾頭が前回のサマリーと第2回の狙いを説明しまして、大阪府立大学大学院生命環境科学研究科教授の小泉望さんが「遺伝子組換え植物の現状」と題した話題提供を行った後で、「第1回目に導き出されたアイデア(シーズ)を実現するため、どのようにカルタヘナ法に関わる問題を切り抜けるか?(一般の人々による誤解をどのように乗り越えることが可能か?)」をテーマにしたグループディスカッションを行い、次いで各グループが導き出した課題解決法について講評や共同検討作業を行い、第3回目に向けた宿題提示や課題生理が行われました。

 みどり≪適塾≫の主催は、みどり≪適塾≫会で、大阪大学産業科学研究所と、一般財団法人の大阪大学産業科学研究協会、それに一般社団法人のテラプロジェクトが協力しています。テラプロジェクト理事長の大阪大学名誉教授の小林昭雄さんは、サントリーが青いバラの国内商業栽培の実現に尽力なさいました。

※日経バイオテク関連記事
(2015.10.22)
サントリーが青いカーネーションの鉢植えを日本で商品化へ、2016年春にもカルタヘナ承認取得
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20151021/188088/
(なお、サントリーの青いカーネーションの鉢植えは上記記事の後、2016年初めに市販に必要な手続きを完了しましたが、サントリーはまだ日本で商業販売を行っていません)

 バイオイメージングなどの分野で著名な研究者である大阪大教授の永井さんは、化学発光蛋白質につきましても数々の研究成果を論文発表している研究者です。論文発表はしていませんが、植物のゼニゴケやある種の花卉(かき)で発光させることに成功していまして、「発光植物によるエネルギー節減への取り組み」も進めています。

(2016.12.15)
阪大の永井健治教授ら、明るい5色の発光蛋白質で細胞内の微細構造を同時計測
「阪大の専売特許」の1分子検出も、「木を見て森も見れるドローンの威力」
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/16/12/14/02039/

 さて「光る花」といえば、2年ほど前、蛍光で光る花が、東京の上野公園にある国立科学博物館で展示されて話題になりました。農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)と奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)、NECソリューションイノベータ、理化学研究所発ベンチャーのインプランタイノベーションズ(横浜市、高根健一社長)が開発に成功したと3年ほど前に発表した成果です。

【GreenInnovation Vol.274】(2014.11.27)
世界初「青いキク」が一般公開されました。「光る花」は来年2月22日までです。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20141127/180712/

 このように“蛍光”で光る植物の場合は励起光が必要なので、例えば照明として利用するのは難しいのですが、励起光が不要で化学物質のエネルギーを光に変える“発光”で光る植物は、例えば街路灯樹木にも利用可能といえるのでは、と思います。昼間に光合成で貯めた有機化合物のエネルギーを、夜間に光に変える、という仕組みですかね。

 発光キノコのヤコウタケは、10本ほどまとめれば新聞を読めるぐらいの明るさになります。ヤコウタケには光を発する高効率のシステムがあるはずと注目している研究者は多いようです。「緑色蛍光蛋白質の発見と応用」で08年にノーベル化学賞を受賞した下村脩さんは、ロシアの研究グループと研究に取り組んでいるとのこと。永井さんも研究に取り組んでいるようです。

 生物における化学発光反応の多くは、酵素であるルシフェラーゼの働きにより、酵素の基質になるルシフェリンが酸化されるときに光が出ます。ただし、生物によって、ルシフェラーゼのアミノ酸配列(1次構造)は異なりなすし、発光物質であるルシフェリンは生物によって様々な化合物が利用されています。

 ヤコウタケの発光物質がヒスピジンであると特定した成果は、当時は名古屋大学大学院生命農学研究科の助教だった大場裕一さんらが2015年に論文発表したようです。大場さんは2016年4月に中部大学応用生物学部環境生物科学科の准教授に異動なさいました。

 光る街路樹を実現する取り組みは、たいへん楽しみです。

 さて2つ目は、研究開発段階でのカルタヘナ法第一種使用等の意見を聴取する学識経験者の一部の方々が交代した話題です。

 2016年11月に改正された名簿11人を以下に記します。氏名・所属 役職名(専門分野)の順の記載です。

阿部光知・東京大学大学院理学系研究科 准教授(植物分子遺伝学)
有江 力・東京農工大学大学院農学研究院 教授(植物病理学)
井鷺裕司・京都大学大学院農学研究科 教授(生態学)
伊藤元己・東京大学大学院総合文化研究科 教授(保全生態学)
大澤 良・筑波大学生命環境系教授(植物育種学)
新任○刑部祐里子・徳島大学生物資源産業学部 准教授(植物育種学)
新任○加藤 尚・香川大学農学部 教授(化学生態学、雑草学)
篠崎和子・東京大学大学院農学生命科学研究科教授(植物生理学)
旧主査代理○篠原健司・理化学研究所環境資源科学研究センター コーディネーター(植物生理学)
新任○辻本 壽・鳥取大学乾燥地研究センター 福センター長(植物遺伝育種学)
吉田 薫・東京大学大学院農学生命科学研究科 准教授(植物育種学、植物環境工学)

 新任のうちの刑部さんは、ちょうど記事取りまとめ中の「論文の引用分析による世界で影響力の高い科学者2016年版」の植物・動物科学分野で、新たに登場なさった日本人研究者のうちの1人です。この分野では、世界で200人余りが選ばれたうち、日本人が30人余りを占めていまして、日本人の存在感が最も大きい分野といえます。
 この影響力の高い科学者は、Clarivate Analytics社(旧Thomson Reuters社IP&Science)が毎年発表しているもので、2016年版は、2016年11月16日に発表されました。この登録データによると、全体で3000人余りのうち、おおよそ日本機関所属が75人で、うち第1所属機関が日本は72人、第2所属機関が日本の日本人は1人です。実際は現在の所属機関が変わっている方々も多いので、できるだけアップデイトした内容で近く、日経バイオテクONLINEにて報道します。

 なお、この11月で名簿から外れた3人の方々は、次の通りです。主査の武田和義さんがいなくなられたので、新メンバーでどなたが主査を務めるのかにも注目です。主査代理だった篠原健司さんが主査になられる可能性も大きそうですね。

※2016年11月以前まで名簿に掲載されていた学識経験者3人

主査◎武田和義・岡山大学 名誉教授(植物育種学)
田中宥司・新潟薬科大学応用生命科学部 教授(植物育種学)
藤井義晴・東京農工大学大学院農学研究院国際環境農学部門 教授(有機化学、雑草学)

 新メンバーでの会合は来年早々にも開かれるのではと思います。弘前大学が科学技術振興機構(JST)のベンチャー支援制度も活用して実用化を目指しているエピゲノム育種ジャガイモも、意見聴取の対象になるのでは、と推定しています。今年2月の会合に続き、来年初めの会合も傍聴取材したいと考えております。

(2016.09.01)
弘前大、接ぎ木で人工RNAを供給するエピジェネ育種ジャガイモを発表
カルタヘナ第一種に準じた扱いで隔離圃場試験へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/16/08/31/01431/

(2016.02.04)
弘前大、siRNA供与穂木でジャガイモをエピゲノム編集
新世代の接ぎ木技術でアクリルアミド対策も
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/16/02/04/00167/

 このエピジェネ育種ジャガイモに特に注目しております理由の第一は、日本オリジナルの革新技術の社会実装に向けた取り組みであることです。次いで、ゲノムDNAの塩基配列を通常通りに読んでも、DNA塩基のメチル化というエピジェネ変化は検出できないので、隔離圃場試験でモニタリングをどのように実施していくのだろうという技術課題の興味もあります。

 毎月第2・第4木曜日に配信している日経バイオテクGreenInnovationメールに掲載している記者や専門家によるコラムを掲載します。

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