画像のクリックで拡大表示

 今日8月31日は「野菜の日」です。野菜の健康効用に関する研究も進んでいますね。

 まずは、定例の保健機能食品のアップデイト情報です。

 機能性表示食品は、この1週間では、2018年8月24日(金)に6件(届出番号:D50からD55まで)の届出情報を消費者庁が公表しました。機能性関与成分の新規などは無いかと思います。

 今回のメールでは、ゲノム編集技術の進歩についてお届けします。昨日(8月30日)に文部科学省と厚生労働省が開催したヒト受精胚へのゲノム編集技術等を用いる研究に関する合同会議(第3回)の資料でも、ゲノム編集技術についてかなりアップデイトされた内容が整理されていました。

 8月17日(金)と18日(土)に都内で開催された第7回日本DOHaD学会学術集会を一部取材しましたが、“元気な赤ちゃん”のためには食べ物で摂取する栄養成分が重要です。その裏付けとなるエビデンスを構築するには、受精胚を用いた研究も欠かせないのではと思います。

 DOHaDとはDevelopmental Origins of Health and Diseaseの略であり、「将来の健康や特定の病気へのかかりやすさは、胎児期や生後早期の環境の影響を強く受けて決定される」という概念です。

 さて、ゲノム編集技術は、生物のゲノム情報をピンポイントで書き換えることができる技術です。

 ヒトのゲノムは30億塩基対で、乳酸菌の300万塩基対に比べると、1000倍の大きさです。

 地球の表面積をヒトのゲノムサイズとすると、乳酸菌のゲノムサイズはおよそ日本の陸地面積に相当します。

 RNAの塩基配列でゲノムDNAの塩基配列を認識するという、第3世代のゲノム編集技術であるCRISPR/Casの登場で、ゲノムDNAのピンポイントの場所を特定する道具を作製することが、簡単になりました。

 ゲノムDNAの2本鎖を切断するハサミの部分であるCas蛋白質は1つあれば、あとはガイドRNAと組み合わせてエノムDNAの標的部位をピンポイントで切断できます。

 ニーズが高いので当然のことながら、ヒトを対象としたツールの整備が一番進んでいます。

 ヒト2万の遺伝子をカバーするガイドRNAのライブラリーが提供されているので、ヒト2万の遺伝子の1つ1つの機能を欠失させて(ノックアウト)して、機能を見るということがヒトの細胞を用いた研究では広く実施されています。

 8月10日に論文発表されたオートファジー遺伝子の発見も、このライブラリーを活用した成果です。

(2018.8.10)
東大の水島昇教授ら、CRISPRでヒト新規オートファジー遺伝子
独自蛍光プローブを活用、間野博行氏と濡木理氏も共著者
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/08/10/04588/

 ゲノム編集の本質は、ゲノムDNAの2本鎖を切断することに留まりません。広辞苑の特定の言葉を見つけ出すように、ゲノムDNAの標的部位を、ピンポイントで指定できる、というのが本質的です。

 ゲノムDNAの2本鎖を切断するCas蛋白質は、DNA2本鎖をほどいて2本にしたDNA1本鎖を切断するハサミを2つ持っています。

 Casのアミノ酸配列を変更してハサミの機能を欠失させることにより、DNAの1本鎖の片方のみを切断するように改変したnCasや、DNAの2本鎖とも切断できないようにしたdCas9が発明されて、活用されています。

 特にdCas9は、この蛋白質にさまざまな機能蛋白質を連結することにより、発現促進、発現抑制、イメージングなどなど、ゲノムDNAのピンポイント部位にいろいろな操作を行うことができます。

 神戸大学のTarget-AID法などのように、ゲノム編集ツールに塩基を変換できる酵素を作用させて、ゲノムの標的配列を変換する技術は、基本的にdCas9を利用したものです。

 nCas9も利用されています。Target-AID法でも、dCas9の替りにnCas9を用いた方が効率がよい場合があります。

 また、nCas9は、CRISPR/Casシステムの問題点として指摘されるオフターゲット(標的部位でない塩基配列に作用していまうこと)を低減するのにも役立ちます。

 通常のCRISPR/Cas9は、ゲノム標的部位の塩基を認識するガイドRNAは1つだけで、ゲノム標的部位を特定してゲノムDNA2本鎖を切断しますが、nCas9を利用してゲノムDNA2本鎖を切断するには2本鎖のうちの1本ごとにガイドRNAを設定するので、オフターゲットのエラー率が減ります。

 仮にガイドRNA1つ当たりの確実性が9割(エラーが1割)とした場合、ガイドRNA2つで認識するようにすれば、掛け算になるので、エラー率は1%になります。

 このnCas9を利用する場合は、ガイドRNAを200塩基以内ぐらいの範囲内で2カ所設定する必要があります。1本鎖切断の場所が遠すぎると、2本鎖切断にならないのです。

 このガイドRNAを設定しやすくする(=オフターゲットの抑制に寄与)成果が、今日、Science誌にて発表されました。

(2018.8.31)
東大とMIT、阪大、ゲノム編集CRISPR/Cas9の標的領域を4倍に拡張
構造情報に基づいてアミノ酸残基7個を置換、Science誌にて発表
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/08/31/04661/

 ガイドRNAを1遺伝子について3カ所設定することにより、標的の遺伝子の機能を欠失させる(ノックアウト、KO)効率を向上するトリプルCRISPR法の成果が、一昨日に発表されました。睡眠の研究なので、1週間前の機能性食品メールも参照してください。

(2018.8.29)
理研BDR、レム睡眠に必須のアセチルコリン受容体2種類を特定
「実験動物の飼育容量は筑波大睡眠WPIの10倍」と上田泰己TL
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/08/29/04652/

(2018.8.24)
【機能性食品 Vol.348】
清水誠教授が「睡眠の質の改善」を東北大で講演、東北大には2019年4月に食品健康長寿研究センター
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/mag/foodmail/18/08/24/00166/?n_cid=nbpbto_mled_fd

 圧倒的な高スループットの性能を誇るCRISPR/Casシステムは、基本特許が海外に抑えられています。

 日本独自のゲノム編集ツール/システムを開発する取り組みも活発に進められていて、金沢市で開かれた学会でその一部が発表されました。

(2018.8.27)
徳島大と産総研、日本独自のゲノム編集技術2つ
金沢の植物細胞分子生物学会で8月26日に発表
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/08/26/04638/

 8月30日の文科省と厚労省のヒト受精胚へのゲノム編集技術等を用いる研究に関する合同会議(第3回)の資料では、上記のdCas9や、昨年の日経バイオテクのゲノム編集特集記事で「CRISPR C2C2」という名前で紹介した紹介したRNAを認識するCRISPR/Cas13も記載されていました。

 RNA認識では、日本オリジナルのゲノム編集ツールであるPPRも紹介してもらいたい、とも感じました。

 切断した後の修復を制御して、切断後の修復の精度を上げるシステムの開発では、日本勢の頑張りが大きいようです。

 先週には広島大のLoADシステムの成果が、Nature Communications誌にて論文発表されました。

(2018.8.22)
広島大、ゲノム編集DSB後修復の精度を向上するLoADシステム
選択圧無しで標的部位への遺伝子挿入を複数個同時実現は世界初
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/08/21/04619/

 なお、上記のオフターゲットの懸念は、農作物の育種という観点では、それほど重要ではないことも強調しておきます。分析も困難です。

 植物細胞は培養するだけで、多くの塩基配列の変化が生じます。ゲノム編集ツールを培養細胞に作用させた場合は、培養するという工程で多くの変異が生じます。その数多い変異のうち、ゲノム編集のオフターゲットで生じたということを判定するのは困難です。

 農作物などの新品種は、化学物質の添加や放射性物質の照射などで変異をたくさん起こして、得られた変異体の中から好ましい形質を持つものを選び出す、という育種法で開発されたものがたくさんあります。

(2018.3.29)
筑波大と農研機構、イネのゲノム変異は培養過程で生じる
ゲノム編集とEMS変異、培養のみ等の比較を育種学会で発表
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/03/28/04053/

 カルタヘナ法における位置付けが明確化されることも、農作物や魚などのゲノム編集育種の実用化、社会実装に寄与します。日経バイオテク2018年8月27日号の特集記事も、ぜひご覧ください。

(2018.8.27)
日経バイオテク○特集
農水分野のゲノム編集2018
カルタヘナ法の該当範囲を明確化、精度高める新技術が続々登場
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082400016/082200062/