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 今日2018年6月1日(金)は、天野エンザイム科学技術振興財団が愛知県北名古屋市の天野エンザイム慈善堂ホールにて開催している第19回酵素応用シンポジウムを取材しています。

 まずは、恒例の保健機能食品のアップデイト情報です。

 この1週間では、2018年5月25日(金)に3件(届出番号:C448からC450まで)、5月30日(水)に2件 (届出番号:C451とC452)、消費者庁が機能性表示食品の届出情報を公表しました。有効な機能性表示食品の届け出は1324件程度になったかと思います。新しい機能性関与成分の届け出は特には無いようです。

 特別用途食品については、改正案についての意見募集が2018年5月31日から始まりました。締切日は7月2日。

 海外では広く実用化されている「乳児用調製液状乳」を、日本でも「乳児用調製粉乳」に加えて認めていくことに伴うパブコメですね。

 震災などが起こったときなどには、液状乳でしたら、粉乳を溶くお湯が無くても、乳児向けの乳を確保しやすいなど利便性が高まります。

 5月中旬に岡山県で開かれた日本栄養・食糧学会の講演で、南海トラフの地震が起きたときには、四国の住民の方々の生活を岡山県でサポートできるように準備しているという講演をうかがったことを思い出しました。学会の会場となった岡山県立大学の学生の皆さんも、この活動に参加しているという写真が、大学食堂に掲示されていました。

 今回のメールでは、“海の幸”魚介類を将来の世代へと引き継ぐための新たな動きに注目していることを報告します。

 環境省が、ゲノム編集技術を用いて育種した生物について、カルタヘナ法にてどのように取り扱うかの議論をこれから開始して、今年秋までに取りまとめる予定です。

(2018.5.31)
環境省、ゲノム編集の概念を秋までに整理
カルタヘナ法におけるゲノム編集技術等検討会を設置へhttps://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/05/31/04316/

 実は10年以上前のことになりますが、遺伝子組換え魚を飼育する施設を、三重県の施設(現在は、水産機構の一部)にて取材したことがあります。

 養殖で用いた海水などは焼却処分するなど、まわりの生態系に悪影響が出ないように、との立派な施設でした。

 カルタヘナ法を守ってきちんと対応することはもちろん、たいへん重要ですが、ここ数年ほどで飛躍的に技術が発展しているゲノム編集技術で育種した魚すべてについても、同じ扱いにするのかどうか、というのが大きな課題となっています。

 カルタヘナ法対応にて養殖すると、養殖の費用はかなり大きくなるかと思います。海の幸ではありませんが、カイコの場合で、10倍ぐらい違うのでは、という話をうかがったことがあります。

 先日、外食チェーン店の「なか卯」で、490円の親子丼を食べるときに、うな丼が850円で売っていることが気になったのですが、日常生活において食料は価格が大事ですよね。

 コストにも増して、カルタヘナ法対応のために、貴重なエネルギー資源がより多く消費されることが、より重大かとも思います。

 ミオスタチン遺伝子をゲノム編集技術でノックアウトすることにより、身の厚いマダイやトラフグなどを育成する技術開発は既に実用化段階に達しています。

 海産魚は、1回で産む卵の数が数十万個のレベルです。その赤ちゃんを元気に育てた魚は、貴重な食料資源となります。

 今回、内閣府の方針に基づいて、環境省が検討することに大きな意義を感じています。カルタヘナ法の元締めといえる環境省が概念を整理すれば、水産機構の指針なども変わっていくのでは、と思います。

 2018年4月26日には、水産庁が「水産業の成長産業化を推進するための試験・研究等を効果的に実施するための国立研究開発法人 水産研究・教育機構の研究体制のあり方に関する検討会」の提言を、公表しました。

(2018.5.24)
水産機構、ゲノム編集や突然変異を含む育種技術の基本指針を施行
水産機構の「突然変異養殖魚」特許は成立
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/05/23/04287/

 一方、農林水産省では、水産庁が水産政策の改革を、来週発表します。いろいろと話題になる日本の漁業権を見直して、民間企業が養殖事業を日本で実施しやすくするとのことです。

 担当の水産庁漁政部企画課にて入手した資料(案)には次のような記載があります。

(ここから引用)
養殖・沿岸漁業については、我が国水域を有効かつ効率的に活用できる仕組みとする。

特に、養殖については、国際競争力につながる新技術の導入や投資が円滑に行われるように留意して検討する。(ここまで引用)

 海の幸の記事とりまとめを進めていますので、ニッスイ(日本水産)と、マルハニチロの開示資料をチェックしています。

 コストコで売られているブリを生産している黒瀬水産は、ニッスイのグループ会社ですね。2017年12月21日付のリリースの概要を以下に紹介します。

 日本水産の連結子会社である黒瀬水産(宮崎県串間市)が、2017年12月16日付で、世界で初めてブリのASC認証(ASC Standard:ASC Seriola & Cobia Standard V1.0)(注1)を取得しました。また、黒瀬水産では、ASC認証の養殖魚を出荷するため、2017年11月30日付で同社の加工場についてCoC認証(注2)も取得しました。

(注1)ASC認証
養殖業が持続可能な方法で運営され、周辺の自然環境や地域社会への配慮が行われている「責任ある養殖水産物」であることを証明するもので、WWF(World Wide Fund for Nature、世界自然保護基金)とオランダの持続可能な貿易を推進する団体であるIDH(The Sustainable Trade Initiative)が設立支援した水産養殖管理協議会(Aquaculture Stewardship Council)が運営している。

この認証制度は自然資源の持続可能な利用を補いながら、養殖そのものが及ぼす環境への負荷を軽減し、これらに配慮した養殖業に携わる地域の人々の暮らしを支えるための社会的な仕組みの一つ。

ASC認証の対象魚種は、ティラピア、パンガシウス、サケ、エビ、マス、二枚貝、アワビなど30種があり、全世界で36か国554養殖場が取得しています(2017年12月19日現在)。このほど黒瀬水産がASC認証を取得したブリは31番目。

なお、天然魚に対する認証制度はMSC(海洋管理協議会、Marine Stewardship Council)が運営している。

(注2)CoC認証
MSCが管理運営する、加工流通過程の管理(Chain of Custody)に対する認証のことで、製品の製造・加工・流通の全ての過程において、認証水産物が適切に管理され、非認証原料の混入やラベルの偽装がないことを認証する。

 ニッスイは2018年5月23日、2020年度を最終年度とする3カ年の新中期経営計画「MVIP+2020」を、発表しました。

 2018年3月期(2017年度)決算では、チリにおける鮭鱒(トラウト)養殖事業が利益に大きく貢献しました。販売価格の上昇に加えて繁殖成績も良好で、この事業による営業利益は前期に比べ42億円も増えました。

 日本では、ニッスイグループ企業の弓ケ浜水産(鳥取県境港市)における銀鮭養殖の数量が年2000tと、前j木に比べ2倍以上に増えました。

 中期経営計画では養殖事業については、南米以外での海外養殖事業検討、新規魚種・陸上養殖の事業化(エビ、サバ、サクラマス)、完全養殖マダコの研究推進、を挙げています。

 2020年度の計画は、売上高7560億円(2017年度比111%)、営業利益290億円(同123%)。投資総額は900億円(M&Aなど100億円を含む)。

 営業利益の計画で増加率トップの事業は、ファインケミカル事業です。ファインケミカル事業の主力製品であるEPA/DHAの世界市場(2016年度、1ドル=110円で計算)については、1308億円(8万8518t)、うち日本は134億円(5350t)というGOED出典のデータを紹介しています。

 一方、マルハニチログループは、4カ年の中期経営計画「Innovation toward 2021」を2018年3月5日に発表しました。

 同日に発表したサステナビリティ中長期経営計画には、“海のエコラベル”MSC漁業認証の水産物の取扱量が37万tであることや、民間企業として初めてクロマグロの完全養殖サイクルを確立し、さらなる生産量向上と商業出荷を推進することを紹介しています。

 5月14日にInnovation toward 2021の概要を説明した資料に記載の数値を紹介します。2022年3月期(2021年度)の売上高1兆円(2017年度実績比109%)、営業利益310億円(同127%)。投資額は1100億円。

 収益力を更に向上させるための取り組みの最初に、完全養殖マグロ事業の拡大、新魚種養殖技術の開発を挙げています。

 長期経営ビジョンでは10年後にありたい姿の定義として、世界No.1の水産会社としての地位を確立、冷凍食品・介護食品の国内No.1企業としての地位を確立、水産物由来機能性材料のリーディングメーカーとしての地位を確立、などが記載されています。

 水産物由来機能性材料で需要が拡大している主力製品は、DHAです。2017年度は、機能性表示食品制度を追い風としたDHA・EPAの販売が好調に推移しました。プロタミン・DNAの方は、サケ不漁に伴う原料不足により販売を調整しました。

 マルハニチロの2018年3月の資料によると、競合企業の時価総額世界トップ3は、ノルウェーのMarine Harvest社(92億ドル)、タイCharoen Pokphand Foods社(60億ドル)、タイThai Union Group(31億ドル)とのことです。

 5月31日終値ベースの時価総額は、マルハニチロが2188億円で、ニッスイが1665億円。世界1位のノルウェーMarine Harvest社に比べると数分の1ですね。

 さて、最後にゲノム編集の関連の今週の記事をもう1つ、紹介します。人間の元気な赤ちゃんを育むための基礎研究の規制をどうするか、という文部科学省と厚生労働省の合同会議が初開催されました。

(2018.5.31)
ヒト受精胚ゲノム編集会議が初開催、指針の範囲を文科省が内閣府に確認へ
「siRNAなどノックダウンも対象か」委員から質問相次ぐ
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/05/31/04315/

 この会議を傍聴していて、技術の発展に規制が追い付いていくのも大変だと感じました。

 この会議で講演資料などが紹介された、埼玉医科大学ゲノム医学研究センター遺伝子治療部門長の三谷幸之介さんの講演は、2017年11月の人類遺伝学会第62回大会にてうかがいました。次の内容が特に印象に残っています。

 培養細胞においてはこれらの酵素(CRISPR/Cas9など)によるオフターゲット変異よりも、細胞分裂の際のDNA複製エラーによる自然突然変異の方が高頻度で生じる。さらに、個人間のDNA配列の多様性の方がこれらの変異の頻度よりも桁違いに頻度が高いために、ゲノム編集の結果として生じるDNA変異を検出するのは、現時点ではほぼ不可能である。in vivoのゲノム編集では、それに加えて、Cas9の恒常的発現によるオフターゲット変異の蓄積や細菌由来のCas9蛋白質の免疫原性などを考慮に入れる必要がある

 最後に、植物に関する記事も、紹介します。

(2018.3.29)
筑波大と農研機構、イネのゲノム変異は培養過程で生じる
ゲノム編集とEMS変異、培養のみ等の比較を育種学会で発表
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/03/28/04053/