【日経バイオテクONLINE Vol.3168】

史上最高額、薬価2億3375万円の薬が米国で登場

(2019.05.29 08:00)
野村和博

 皆様、おはようございます。日経バイオテク副編集長の野村です。ついに、あの薬が出てきました。スイスNovartis社の脊髄性筋萎縮症(SMA)の遺伝子治療薬、Zolgensmaです。

 Zolgensmaは24日に米食品医薬品局(FDA)によって承認されました。人工呼吸器なしでは2歳以上生きられないと言われている乳児型SMAを1回で治療することができる薬です。フェーズIIIのSTR1VE試験では21人の患者に投与され、2019年3月の時点で19人がイベントフリーで生存(1人死亡で1人は試験中止)。フェーズIコホートのSTART試験では高用量群12人中2人が立ったり歩いたりできているという素晴らしい臨床効果を発揮しています。

 同時に価格も発表されました。212万5000ドルだそうです。1ドル110円で計算すると2億3375万円。高額さが批判を浴びていたLuxturnaの85万ドルを大きく上回り、米国で薬価の史上最高額が更新されました。

 この金額を見て、「あれ?思っていたよりも安いじゃないか」と思った方はいませんか?

 昨年11月にNovartisのDave lennon氏が「Zolgensmaの価格は400万ドルから500万ドルでも費用対効果に優れる」と発言したことが広く報道されたのを覚えている方はそう思ったのではないでしょうか。Zolgensmaにどんな価格が付くか注目が集まりましたが、これを引用して「あのとき500万ドルを吹っ掛けたのは、正式な値段を安く見せるのに役立った」と皮肉っている海外メディアもありました。

 Novartisは212万5000ドルとはどういう価格かを、以下のように説明しています。
(1)現在のSMA治療に用いられるスピンラザを10年間使ったら410万ドルかかるが、そのおおよそ50%。
(2)遺伝性の小児超希少疾患にかかる10年間の治療費(440万ドル~570万ドル)の50%以下。
(3)費用対効果は1QALY当たり25万ドルとなり、ICERが設定する小児超希少疾患の閾値の50%以下。

 割安感を強調していますが、ちょっと気になったのはZolgensmaのフェーズI試験が2014年に始まったということ。ヒトでの投与経験がまだ最長で5年、高用量では4年ほどしかたっていないのに、10年間効くことを前提とした計算を公表しています。相当な自信の表れと言えるでしょうが、そう理論通りに事が進むでしょうか。

 薬代の支払いについても注目で、5年間の分割支払がアウトカムベースで行われるようです。どのようなアウトカムに基づきどのような支払いが発生するのか詳細はまだ不明ですが、Novartisは前CEOのJoseph・Jimenez氏が「我々は成果報酬型のプライシングの先頭を行く」と宣言したとおり、キムリアに続いて高額薬をいかに世間で浸透させるかについて、試行錯誤を続けているようです。

 さて日本ですが、こうなるともうZolgensmaの1億円超えは確実と言えそうです。今後続出する、ウイルスベクターを用いた遺伝子治療薬の価格を決める上で重要な品目であることは間違いありません。

 ところが、日本での承認はやや遅れています。Zolgensmaは申請後6カ月での承認を目指す先駆け審査指定制度の対象品目ですが、承認申請は2018年11月になされています。間もなく7カ月がたとうとしていますが、まだ薬食審部会にも登場していません。承認してしまうと90日ルールで薬価を決めなければならないので、慎重にならざるを得ないのではないでしょうか。この夏はキムリア以上の大騒ぎになるのではないか。そう感じています。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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