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【日経バイオテクONLINE Vol.3158】

環境DNA(eDNA)特集記事を掲載。Swift社やLoops社、トヨタ自動車の新技術にも注目

(2019.05.15 08:00)
河田孝雄

 こんにちは、日経バイオテク編集の河田孝雄です。

 先々月の以下のメールでも少し紹介しましたが、環境DNA(eDNA)の特集記事を、日経バイオテク2019年5月13日号に掲載しました。

【日経バイオテクONLINE Vol.3129】
日本農芸化学会、日本ゲノム微生物学会、日本育種学会、日本生態学会、日本蚕糸学会、 水産学会と環境DNA
(2019.03.27)

日経バイオテク2019年5月13日号◎特集
発展する環境DNA(eDNA)領域
NGSで環境中の生物を網羅解析、SDGsや感染症の対策にも役立つ
(2019.05.13)

 「環境DNA(environmental DNA、eDNA)」と呼ばれる新しい分析手法・研究領域が急速に発展していることを、特集記事にて紹介しました。

 生物資源の持続的利用や絶滅危惧種、外来生物の分布拡大への対応、さらには公衆衛生や感染症対策への有用性が示され、世界展開を見据えた日本企業の活動も目立つことが分かりました。日本発の技術が世界標準になるなど、生物の多様性にも恵まれている日本が世界をリードし得る領域といえるようです。

 感染症対策の成果は別途とりまとめた記事もご覧ください。

(2019.04.26)
琉球大と新潟大、神戸大、人獣共通感染症の予防に環境DNA分析
川の水から病原体と保菌動物候補を同時検出

 生物の種の判別や進化の解析に、ゲノムの塩基配列の違いを解析する手法が重要な意味を持つことはよく知られています。

 一昨日(5月13日)には、北海道船泊遺跡から出土した後期縄文時代人の男女の全ゲノムを解読した成果を、日本人類学雑誌英文誌であるAnthropological Scienceにて5月下旬に発表する件について、国立科学博物館人類研究部などが記者発表をしまして、ニュース報道されました。

 国立科学博物館と国立遺伝学研究所、東京大学、金沢大学、山梨大学、札幌医科大学、東海大学の7機関の研究者が共著者です。

 今月、新しい元号の令和が始まり上皇になられた明仁・第125代天皇は、ハゼの研究者としも広く知られています。

 日本周辺の沿岸に生息する2種のハゼ科魚類の種分化を核DNAとミトコンドリアDNAで解析した成果は、2016年にGene誌にて論文発表なさいました。

 この論文の責任著者は、サウジアラビアKing Abdullah University of Science and Technology(KAUST)の特別栄誉教授で国立遺伝学研究所名誉教授の五條堀孝博士です。

 新登場のeDNAは、生物体そのものから抽出したDNAではなく、水や土壌、空気などの環境中に存在するDNAを分析する点が新しい。環境中に生息する生物の種や量を推定できる分析手法・研究領域として注目を集めています。

 2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2016年から2030年までの国際目標「持続可能な開発目標(SDGs)」や地球環境問題への対応で、バイオテクノロジーを役立てる新領域として注目すべきではと思います。

 生物のゲノム情報をコードする核酸の塩基配列を高速・安価に解析できるようになった次世代シーケンサー(NGS)のプラットフォームと、1993年にノーベル化学賞の授賞対象となった核酸の増幅技術であるポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) 法の活用により、DNAアンプリコン解析(アンプリコンは、PCR増幅産物)ともDNAメタバーコーディングとも呼ばれる手法が、eDNA領域にて広く普及するようになりました。

 eDNAの肝は、PCR法で核酸の増幅に用いるPCRプライマーを適切に設定できれば、環境中のあらゆる生物を網羅的に検出できるという潜在能力を有することです。検出したい生物ごとに適切なPCRプライマーを設計して用いれば、魚や昆虫、動物、植物などの“目に見える大きさの生物”である「マクロ生物」や、細菌や真菌、ウイルス、バクテリオファージなどの“目視では確認しにくい”「微生物」を、1つのサンプルから同時に網羅的に検出できるのです。

 誌面の制約から今回の特集記事には盛り込みませんでしたが、関連の注目技術をここで紹介します。

 マクロ生物よりも早く、実用化されている微生物のうちの細菌の分類では、16SrDNAが種判別の標的部位です。細菌では16SrDNAによる分類は、種ではなく「OTU」と呼んでいます。

 この16SrDNAの全長を解読できる新技術が登場し、注目を集めています。

 ロングリード3rdNGSを用いれば、1万6000塩基の16SrDNAの全長を解読できますが、必要なDNA量が多いなどの課題があります。正確に読むほど、大量のDNAが必要になります。

 一方、米Illumina製ショートリードNGSで読むためのライブラリー調製キットが、米Swift Genomics社や米Loop Genomics社から商品化されていて、今年初めころから日本でも利用しやすくなってきました。Loop社製キットは価格がSwift社製キットの2倍だが、定量性に優れるようです。

 eDNAの特集記事にも登場した生物技研は2019年5月から、Loop Genomics社製キットを用いた受託解析を開始しました。

 また、種の多様性や判別に役立つGRAS-Diというトヨタ自動車のアンプリコン解析技術は、eDNA領域でも注目すべきです。ゲノム解読が行われていない生態系の多くの生物について、DNAマーカーを特定するのにも威力を発揮します。