【日経バイオテクONLINE Vol.3146】

産学連携の推進へ、わだかまりを残すべきではない

(2019.04.19 08:00)
橋本宗明
京都大学高等研究院特別教授の本庶佑氏(ノーベル生理学・医学賞の受賞決定を受けた2018年10月の記者会見で撮影)
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 皆様、おはようございます。橋本宗明です。先週、ノーベル賞を受賞した京都大学の本庶佑特別教授が京都大学で会見を開き、小野薬品工業に対して抗癌剤オプジーボの対価の引き上げを要求したことが新聞などで大きく報じられました。この記者会見には参加できなかったのですが、後日、本庶氏の代理人である弁護士から詳しく話を聞き、記事にしましたのでどうぞお読みください。

【解説】本庶教授が記者懇談会で小野薬品工業を糾弾した理由
「1000億円の寄付でアカデミアに還流してほしい」

 シンプルに説明すると、2006年に本庶氏と小野薬品工業との間で行った特許のライセンス契約に問題があるので見直してほしいということです。実際には2011年に本庶氏が修正を求め、交渉が始まりました。だから、「オプジーボが大ヒット薬となったので、本庶氏が駄々をこねている」というわけではありません。

 最大の問題は、2006年の契約当時の本庶氏や京都大の体制だったと言わざるを得ませんが、研究者がどこまで契約に関わらなければならないのかを考えると、やはり研究者が所属する大学がきちんと体制を作って権利を守っていく必要があったのでしょう。ただ、当時はまだ国立大学が法人化した直後で、大学側としても十分な体制を講じることができなかった事情は分かります。

 小野薬品工業も2011年に本庶氏の要請を受けて交渉を開始したわけですから、契約に問題があるという認識はあったと推察します。実際、小野薬品も2011年に要望を受けて協議を開始したことは認めていて、「かい離が大きいので話し合いを続けている」とコメントしています。ただ、その話し合いが一向に進展しないので、本庶氏側が不信感を抱いて今回の会見を開催したということです。

 話を聞いていると、産学連携の様々な課題が浮き彫りになってきます。何より一番大きな問題は、大学側の体制の不備で、これは産学連携が活発化する中である程度解消しているのかもしれませんが、それでも地方の国立大学などでは、「国際特許は出せないと言われた」などという話を耳にします。大学側には知的財産に対する意識がまだまだ不足しているように思います。だとすれば今後も同じような事態が産学連携を巡って生じる可能性はあります。

 一方で、一般論としてですが、大学側の知識、経験不足を理由に企業側が一方的な契約を押し付けているとしたら、大学側には不信感が残り、今後の産学連携を推進するにあたって大きな禍根を残すことになります。せっかくの産学連携の機運の高まりに水を差すことになりかねません。ということで、産学連携を前向きに進めるためにも今回の件については両者でしっかりと話し合って、解決策を見いだしていただくことを望みます。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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