【日経バイオテクONLINE Vol.3144】

日本発ゲノム編集技術の社会実装は東京オリンピックイヤーになりそう、令和元年は社会実装の助走年に

(2019.04.17 08:00)
河田孝雄

 5月1日に“令和”に改元される2019年は、バイオテクノロジーの中核であるゲノム編集技術の“社会実装”が本格化するための助走の年になりそうです。

 日経バイオテク2019年1月14日号の巻頭特集「2019年のトレンドを読み解く」の中で、「ゲノム編集育種の法規制整備、農作物や魚類での実用化を後押し」と題した記事にて紹介したとおり、血圧高めやストレス対策に役立つGABAを多く含む高GABAトマトや、身が厚くなる養殖マダイが、日本におけるゲノム編集技術の社会実装の最初の例になりそうです。

 ゲノム編集技術の取り扱いに関する日本での対応が、2019年2月8日に環境省などのカルタヘナ法、2019年3月18日に厚生労働省の食品衛生法、それぞれの法律におけるゲノム編集技術の取り扱いについて方向が決まりました。

 ゲノム編集技術の実用化に向けた取り組みは、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)にて2014年度から2018年度まで実施されたSIP第1期「次世代農林水産業創造技術」で推進されました。

 このSIP第1期4年目(2017年度末)までの達成度では、国産ゲノム編集技術を活用した超多収や機能性成分高含有などの画期的品種の開発に取り組む「新たな育種技術の研究」が、5課題のうちで最も高い「計画以上に進捗」の評価を得ました。ゲノム編集作物の商業化に向けてベンチャーを設立したことが、特に評価されたのです。

 このベンチャーとは、2018年4月に設立されたサナテックシード(東京・港)です。2020年春から種子販売を開始する計画とのことです。
 同社にはパイオニアエコサイエンス(東京・港)が97%出資し、同社の竹下達夫社長がサナテックシードの社長を兼任しています。同社は、筑波大学つくば機能植物イノベーション研究センター長の江面浩教授らがSIP第1期にて開発したGABA高含有トマトなどの事業化を進めています。江面教授はサナテックシードの取締役最高技術責任者を務めています。

 同社は2018年8月に筑波大学発ベンチャーとして承認されました。筑波大学発ベンチャー承認は同社が140社目でした。

 ゲノム編集生物を用いた食品の表示をどうするか、消費者庁が検討を始めましたが、GABA高含有トマトの場合は、ゲノム編集技術によってGABA含有量が安定して高くなることを実現したことを、消費者に真正面から訴求しますから、表示をどうするのかといった課題は無いと見ることができます。

 身が厚くなる養殖マダイのほうは、近畿大学と京都大学が開発しました。生物多様性への影響の観点から、養殖は開放系の洋上ではなく、陸上で行われる見通しです。この陸上養殖に必要な要件などを、農林水産省が検討を進めていまして、その結果を待ってからの事業化になります。

 そのような訳で、日本で開発されたゲノム編集生物の実用化・社会実装は2019年中は間に合わなそうで、2020年の東京オリンピックイヤーになりそうです。
 米国では、ゲノム編集技術を用いて育種された高オレイン酸ダイズの商業生産が2018年から始まり、2019年から流通が始まっています。米Calyxt社(Cellectis Plant Sciences社が2015年5月に社名を変更)がゲノム編集ツールのTALENを用いて育種したダイズ品種です。栽培において規制対象外であるとの見解は2015年5月に米農務省から取得しました。現在のところ厳格な分別生産流通管理(IPハンドリング)の下で生産物を流通させており、日本に輸入されることは無いとのことです。

 また、米Dow DuPont社のアグリカルチャー事業部門から新たに生まれるCorteva社は、CRISPR/Casで育成した最初の農業製品(ただし非食用)として事業化すると2016年4月に発表した、もち種トウモロコシの事業化を2019年から本格化しています。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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