【日経バイオテクONLINE Vol.3117】

失敗させて人を育てる価値観の社会に

(2019.03.08 08:00)
橋本宗明

 皆様、おはようございます。日経バイオテク編集長の橋本です。先週から今週にかけて、相次いでベンチャーキャピタル(VC)によるファンド創設の話題を記事にする機会がありました。

新生銀からのカーブアウトVCが新規ファンド設立
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/19/02/28/05326/

NVCCの京都大2号ファンド、54億円で最終クロージング
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/19/03/05/05341/

 また、記事にしてはいませんが、2月20日には三菱UFJキャピタルがライフサイエンス分野に特化した総額100億円の「三菱UFJライフサイエンス2号ファンド」の設立を発表しています。バイオベンチャーに比較的大きな規模の出資をしていた産業革新機構(INCJ)が新規の投資をやめ、その代わりに設立された官民ファンドの産業革新投資機構が昨年末のすったもんだでベンチャー投資を始められない状況が続いています。そのせいばかりとも言えませんが、日本ではスタートアップに投資をするお金は昨今、比較的潤っているものの、「非臨床から臨床に進むぐらいのところまで来たベンチャーが、まとまった資金を調達するのが困難」と言われています。比較的規模の大きなファンドが創設され、まとまった資金の供給者が出てくれば、死の谷を乗り越えて前進するバイオベンチャーがもっと増えてくるのではないかと思います。そんな日本のバイオベンチャーと、それを取り巻くエコシステムについて、最近、考えさせられることがありました。

 少し前に、ドイツBoehringer Ingelheim社のRBBという組織のGlobal Headを務めているHenri Doods氏にインタビューをする機会がありました。RBBというのはアカデミアなどとの共同研究を通して新たなターゲットや革新的な技術を取り込んでいくための組織で、日本でアカデミア発の事業化を支援するために、イノベーションプライズというイベントを1月に東京で行いました。このためインタビューは日本のベンチャーやエコシステムに関する話題が中心で、「日本に欠けているのは何だと思うか」と質問すると、「『失敗から学ぶ』ことが非常に不足している」という答えが返ってきました。非常に印象的な言葉だったので、インタビュー記事の見出しに取ったぐらいです。

「『失敗から学ぶ』ことが日本には欠けている」
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/19/02/19/05292/

 彼は、「日本はドイツに似てリスクを取ることに対して非常に保守的だ」とも言っていました。様々な国のアカデミアやベンチャーなどと接してきた立場からしても、日本人は失敗を恐れ、非常に保守的に見えるということなのでしょう。

 なぜ、日本人は失敗を恐れるのでしょうか? 企業社会でサラリーマンとして生きていると、それもなんとなく分かります。新しいことに挑戦して、失敗すると責任を問われ、失敗者のレッテルをはられる。だったら新しいことに挑戦せず、無難に仕事をこなしている方がましだ──。そんな考えが日本の企業社会にまん延していると言ったら言い過ぎでしょうか。

 何かを試して、速いフィードバックを得て、改良に結び付けていくという「Fail Fast」というやり方に対して、「失敗しなかった人が出世する日本の大企業では、こんな考え方は受け入れられないだろう」とある人が指摘していたことを、以前、この欄で紹介しました。株式時価総額の大きい日本企業の顔ぶれを見ていくと、ソフトバンクが2位、ファーストリテイリングが13位にいるものの、民営化された公社や財閥をはじめ、創業50年を超える伝統的な会社がほぼ上位を占めていることに気付かされます。日本の企業社会は依然として伝統的な大企業が支配的であるのは確かでしょう。

 企業社会ばかりではありません。国会答弁を見ていても、ちょっと言い間違えでもしようものなら上げ足を取るような質問が放たれ、何かやらかした企業や有名人は謝罪会見でこれでもかというぐらいに厳しく断罪されます。もちろん、許されざる失敗もあるわけで、それは厳しく断罪されてしかるべきですが、失敗とペナルティーとのバランスを欠くと、過度に失敗を恐れて萎縮する事態を招きます。

 以前、バイオベンチャーの経営者を解任されたある人が、「『お前にはだまされた。別の会社を起こしても、二度と出資はしてやらない』と、某出資者に言われた」と言っているのを聞いたことがあります。その出資者は、経営者のことがよほど腹にすえかねたのかもしれませんが、こういう言動が失敗を恐れる文化を醸成させているようにも思います。そもそも経営者と出資者の間に上下関係があるとも思いませんが、失敗してこそ人は育つものです。失敗させて人を育てるような価値観の社会に変化することが、日本のベンチャーとそのエコシステムには不可欠だと思いました。

 最後に、バイオベンチャーの経営者の方にお願いがあります。日経バイオテクでは、「ベンチャー探訪」というコーナーを設けるなどしながら、日々新しいベンチャーの発掘、報道に努めています。その際、見つけだしたベンチャーのホームページにある問い合わせフォームや、ホームページに記載されたinfo@のメールアドレスに、取材のお願いをお送りすることがよくあるのですが、info@のアドレスに連絡した場合に回答が返って来ない事態に遭遇しがちです。取材を受けたくないならそれで構わないのですが、info@のアドレスを掲出しながら、それをチェックする担当者がいないなどの理由で返事が無い場合もあるように思います。info@のメールアドレスもたまにはご確認いただければ助かります。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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