【日経バイオテクONLINE Vol.3115】

分子生物学会と生態学会、カルタヘナ法、外来種と在来種、日本人とは何か

(2019.03.06 08:00)
河田孝雄

 こんにちは、日経バイオテク編集の河田孝雄です。

 今回は、来週木曜日(2019年3月15日)から5日間、神戸市で開かれる第66回日本生態学会大会にて、日本分子生物学会と連携したシンポジウムが3件、開催されることから、紹介します。

3月16日 シンポジウムME01
「非モデル生物を用いた環境適応の分子基盤研究:分子生物学者と生体学者の共同研究とは」
座長:東北大学大学院生命科学研究科の河田雅圭教授、東北大学大学院生命科学研究科の杉本亜砂子教授

3月17日 ME02
「生物の多様な環境応答:その制御機構解明のための多様な分子生物学的アプローチ」
座長:宇都宮大学農学部バイオサイエンス教育研究センターの宮川一志准教授

3月19日 ME03
「環境DNA研究のフロンティア:生態学と分子生物学からのアプローチ」
座長:兵庫県立大学大学院シミュレーション研究科の土居秀幸准教授と神戸大学大学院人間発達環境学研究科の源利文准教授、東京大学大学院理学系研究科の岩崎渉准教授

 開催はいずれも朝9時半から3時間。生態学会は基本的に野外の生物を研究対象にしている一方で、分子生物学会は室内でモデル生物を研究対象としてきました。安価に生物のゲノム情報を解読できる次世代シーケンサー技術と、生物のゲノムをピンポイントで改変できるゲノム編集技術の進歩・革新が、モデル生物と非モデル生物との隔たりを狭め(壁を低くして)、両学会が連携する原動力となっています。

 大腸菌や線虫は“モデル生物”とばっかり考えるのは間違いのようです。同じ大腸菌でも、あなたや私の腸内に生息している大腸菌は、モデル生物の大腸菌とは性質がかなり異なるようです。大腸菌は、遺伝子組換えの手法が確立しているので、ゲノム編集ツールの出番は少ないのでは、という議論がありますが、自然界にいる非モデル生物の大腸菌では、ゲノム編集ツールが威力を発揮するようです。

 環境省が2月8日、ゲノム編集技術の利用により得られた生物のカルタヘナ法上の整理および取扱い方針について、「ゲノム編集技術の利用により得られた生物であってカルタヘナ法に規定された『遺伝子組換え生物等』に該当しない生物の取扱いについて」を発表しました。

 カルタヘナ法では、生物多様性への影響の可能性を評価することが重要でして、生物の多様性影響評価では、外来種と在来種の問題が出てきます。在来種に悪影響が出て、生物の多様性が減少してしまうことをいかに抑制できるか、が課題となります。

 在来種の1つとして「ニホンザル」の話を伺ったことが強く印象に残っています。

 ニホンザルは、尾っぽが短いという特徴があります。外来種のサルと交雑して生まれたニホンザルの混血個体では、尾っぽが長くなっていることで見分けがつく。在来種のニホンザルを守るために、尾っぽが長くなってしまった個体は殺処分にするとのことです。

 人間活動が、このような混血が生まれる大きな要因になっているかと思いますが、在来種を守るためには、このような手段も欠かせないといいます。

 鳥インフルエンザや豚コレラなども対策に追われています。地球環境を考慮したサステイナブル開発では、人間が中心なのは当然のことといえますが、いろいろと考えさせられます。

 そんな中、2月25日に東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo、機構長:山本雅之教授)が、日本人のゲノム解析を行うためのひな型となる基準ゲノム配列として、日本人基準ゲノム配列JRGAの初版であるJG1を公開しました。
https://jmorp.megabank.tohoku.ac.jp/

 ここで改めて考えるのは「日本人」の意味合いです。先のニホンザルとは生活スタイルが異なりますし、人間は基本的に国境などを超えて遠隔地で活動する機会が飛躍的に増えています。いわゆる国際結婚も増えています。

 日本国籍を持っている人、日本語を話している人、日本人的な顔をしている人、日本に住んでいる人、日本民族と自負している人、自称日本人、などなど、日本人にはいろいろな意味合いがあるかと思います。

 今回公開したJG1は、出身地域が異なる3人の日本人男性についてde novoアセンブリにて構築したとのこと。1人のアフリカ系アメリカ人が76%を占めるという、国際基準ゲノムに比べれば、JG1は、いわゆる日本人に役に立つ情報であることは間違いないかと思いますが、複雑ですね。

 日経バイオテクで月1回連載しています「機能性食材研究」では、食材となる該当生物のゲノム解読状況を記載しています。食塩やにがりなど、一部を除いては食材は生物です。

 次世代シーケンサー(NGS)の進歩で、ゲノムの断片的な塩基配列の解読は安価になりました。およそ10万円ほどで、ざっくりと読むことが多くの生物についてできるようになりました。

 読んだ配列を、染色体のような大きな連続した情報へいかにつなげていくかが、重要です。アセンブリと呼ばれる部分の技術革新に、注目しております。

 今回、ToMMoが採用したのは、米Bionano Genetics社の装置を用いて作成するオプティカルマップという手法です。この解析は米国にて行われたようです。

 日本でアカデミア向けに最先端のゲノム解析を支援する文部科学省の科学研究費助成事業の新学術領域研究「学術研究支援基盤形成」である先進ゲノム解析研究推進プラットフォーム(先進ゲノム支援)では現在、Bionano社のオプティカルマップ作成を支援しているけれども、2019年度からはメニューから外れる見込みのようです。

 オプティカルマップ作成用の前世代装置「Irys」は、輸入代理店のアズワンのデモ機を含めて、日本に設置されているのが3台とのこと。

 Irysの後継機種として、スループットを6倍に向上し、分析の堅牢性を改善した「Saphyr」が登場したため、アズワンは2017年6月をもってIrysの販売を終了しました。ただしSaphyrは、日本には1台も設置されていないとのことです。

 アセンブリの技術革新も目覚ましく、高効率化、低コスト化を実現する新技術の競合関係が激変しているようです。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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