【日経バイオテクONLINE Vol.3112】

遺伝子治療の承認了承の報道について考える

(2019.03.01 10:00)
久保田文

 おはようございます。副編集長の久保田です。

 2019年2月20日、厚生労働省薬事・食品衛生審議会再生医療等製品・生物由来技術部会は、アンジェスの「コラテジェン筋注用」(ぺペルミノゲンペルプラスミド)の条件期限付き承認と、ノバルティスファーマの「キムリア点滴静注」(チサゲンレクルユーセル)の正式承認を了承しました。

ニュース◎厚労省部会、国内初の遺伝子治療2品目の承認を了承
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/19/02/20/05295/

 その日、同部会終了後の20時半、厚労省にある専門誌の記者クラブに記者が集まりました。同部会の審議の結果を、厚労省の担当者が記者に説明するためです。薬事・食品衛生審議会下の複数の部会では、医薬品や医療機器、再生医療等製品の承認の可否が審議されますが、医薬・医療系の専門誌にとってその審議結果は重要です。そのため、毎回部会終了後に、厚労省の担当者が資料を配布し、直接記者に説明する機会(通称:記者レク)が設けられるのです。本誌もいつも記者レクに参加しますが、2月20日のそれはちょっといつもと雰囲気が違いました。

 いつもは医薬・医療系の専門誌の記者ばかり、15人ほどが集まるだけですが、その日は専門誌だけでなく一般紙やテレビの記者が数多く駆けつけ、40人はいたでしょうか。すぐに速報を出さなければならないためか、どの記者もばたばたしていました。記者クラブの一角にあるスペースは、記者であふれました。ある専門誌の記者も、「部会の記者レクにここまで記者が集まったのは見たことがない」と驚いていました。

 なぜ、こんなに記者が集まったのか――。同日の報道番組や翌日の新聞1面をご覧になった読者の方ならお分かりだと思います。「初めての遺伝子治療製品」「ノーベル賞を取った癌免疫の新たな治療法」「非常に効果のある画期的な治療法」「一部の癌患者がずっと待ち望んでいた」「高額すぎて日本の医療費が危ない」等々、2品目の承認の了承は、大々的に報道されました。「あまりの報道ぶりにびっくりし、(遺伝子治療開発の苦難の歴史も製品の副作用の説明も特段なかったので)逆に心配になってきた」というのが、私の正直な感想です。

 さてその次の日、自治医科大学で遺伝子治療研究センター設立を記念するシンポジウムが開かれました。

ニュース◎自治医科大、遺伝子治療研究センター設立で記念シンポジウム
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/19/02/21/05301/

 同シンポジウムには、北米で研究する日本人研究者が登壇。「海外に比べて大幅に遅れている日本での遺伝子治療の研究開発を進展させるためには何が必要か?」という質問に答える形で、「既存のメディアではなく学会などが直接伝える」「期待をあおるように過剰に伝えない」「(何があっても)研究開発をやめずに続ける」といった幾つもの提案(忠告)をしていました。海外から見ると日本(の報道)は、「すごい!」となればみんな飛びついて熱しやすく、「ダメだ!」となればすぐに引いて冷めやすいと見えているのでしょう。一連の報道を頭に浮かべながら、いろいろ感じるところの多いシンポジウムでした。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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