【日経バイオテクONLINE Vol.3093】

遺伝子治療産業の裾野は広がるか

(2019.02.01 08:00)
橋本宗明

 皆様おはようございます。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 まずはお知らせから。長年にわたってお読みいただいてきました「機能性食品メール」と「Green Innovationメール」は1月末で配信を終了しました。長年にわたってご購読いただきありがとうございました。ただし、機能性食品や食材に関する話題、農業バイオ、環境バイオの話題は、今後も日経バイオテクONLINEでニュースを配信してまいります。記事のリンクは、日経バイオテクONLINEメールでお届けしますので、引き続きこちらのメールマガジンをご購読いただければ幸いです。

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 さて、一昨日にスイスNovartis社とノバルティスファーマは、キメラ抗原受容体T細胞(CART)療法のCTL019(tisagenlecleucel、海外製品名「Kymriah」)の治験用製品の製造を、神戸医療産業都市推進機構(FBRI)細胞療法研究開発センター(川真田伸センター長)に委託するための技術移転を完了したと発表しました。

https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/19/01/30/05222/

 ノバルティスファーマはCTL019について、2018年4月に、小児を含む25歳以下のCD19陽性再発又は難治性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病(ALL)、および成人のCD19陽性再発又は難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)を対象として日本国内で製造販売承認申請を行っており、近く承認が見込まれています。ただ、先日もメールマガジンで触れましたが、CTL019は米国では47万5000ドル(約5200万円)という価格が付けられています。日本で薬価やその支払い方式も含めてどうなるかが注目されていますが、経済的な理由で治療を受けられない患者が出てくることも十分に考えられます。逆に高価であること(製造コストが高いこと)が、製品の普及を妨げる一因になりかねないとも言えます。

 一方で、遺伝子治療を含む再生医療等製品は、その製造工程が複雑な分、ある程度周辺産業の広がりが期待されます。今回のNovartis社がFBRIに製造を委託したのはその一例でしょう。製造に専門技術やノウハウが必要になる分、それを専門に受託する企業が立ち上がり、様々なモダリティの1つとして遺伝子治療や再生医療等製品の開発を手掛ける企業と、専門的に受託製造を行う企業とに分化していくことになりそうです。また、役割分担は製造委託だけでなく、品質検査や物流など、幅広い分野に及ぶ可能性もあります。実際、三井倉庫は昨日、「iPS細胞を含む臨床研究検体等の極低温管理・保管・輸送一貫サービスの提供を開始」と発表。再生医療関連のビジネスに名乗りを上げました。

 では、再生医療等製品の産業の裾野はどのぐらいまで広がっていくのでしょう? 裾野を大きく広げるためには、役割分担した事業者を交えてコスト削減の努力を行い、最終製品の価格を手頃なものにしていく必要があるでしょう。そのためには業界全体でロードマップを作製して、目標やビジョンを共有して取り組むべきかもしれません。

 たまに考えるのは、「黎明期の自動車は、世の中にどのように受け入れられたのだろう」ということです。既にその頃から広い裾野を持った産業に発展することを見越して、期待を持って見られていたのか、提供される価値は馬車などとさほど変わらないのに高価なものと見られていたのか。実際のところよく分かりませんが、時間を掛けて分業体制を作り、巨大な産業に発展してきたのは確かです。再生医療等製品の産業の裾野がどこまで広がるのかはよく分かりませんが、想像力が足りないために技術の可能性を否定することにはならないようにしたいと思います。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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