【日経バイオテクONLINE Vol.3091】

再生医療に対する世の中の期待に応えるには

(2019.01.30 08:00)
橋本宗明

 皆様、おはようございます。日経バイオテクの橋本宗明です。

 当社でビジネスマンを対象に、将来に期待する技術分野を挙げてもらうアンケートをすると、AIやロボット、自動運転などと並んで必ず上位に入ってくるのが「再生医療」です。昨年も当社で同様の調査を実施したところ、2030年に期待する技術の第1位には、AIなどを抑えて「再生医療」が入りました。その詳細は、昨年10月に当社が発行した「世界をつなぐ100の技術」という書籍に紹介されています。

 再生医療に対する世の中の期待はこれほど高いのですが、実際には遺伝子治療(再生医療等製品というと遺伝子治療を含みます)、臓器移植、人工臓器、医薬品や医療機器などと競合することになり、実用化にたどり着けるのは限定された疾患に対してということになるかもしれません。アーサー・ディ・リトル・ジャパンのコンサルタントの方に執筆いただいている連載「再生・細胞医療 産業化に向けた道標」は、そんな視点でかなり冷静に再生医療について分析しており、読者の好評をいただいています。

 再生医療等製品(ここからは遺伝子治療も含めて議論したいと思います)の実用化が、世の中の期待ほどには進んでいない一因に、おそらくは製造コストの高さがあると思われます。2019年には遺伝子治療薬が日本で初めて承認されるとみられますが、その有力候補であるCART療法のCTL019の米国での価格は47万5000ドル(約5200万円)です。製造コストをカバーし、かつ研究開発投資を回収しようとするとこのような価格をつけざるを得ないということなのだと思いますが、果たしてこのような価格で医療を受けたいと思う人がどれだけ出てくるか、疑問を感じます。これだけコストがかかるため、企業側も市場性に疑問符が生じて事業化に踏み切れず、結果として実用化が進展しないという負のスパイラルに入っているような気がします。

 では再生医療等製品は未来永劫高価格であり続けるのでしょうか? かつて、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査部長だった故人の田中克平さんが再生医療に関する講演時に、寿司屋の店内を写真で示し、「寿司屋は長い経験から現在のようなスタイルになっているけど、経験がなければ『職人は手袋をしなければならない』『寿司ネタのショーケースは雑菌が入らないように内部を陽圧にしなければならない』ということになったかもしれない。再生医療に対して厳しい規制があるのは経験がないからだ」といった説明をされていたのを思い出します。つまり、現在、再生医療等製品が高価格になっている要因の中には、ある程度経験が積まれれば、将来的には不要になる検査のコストなども含まれている可能性があります。また、製造工程の中にはある程度の量産が見込めるようになればコストダウンできる工程もあるかもしれません。現実には実例が少ないので難しいかもしれませんが、製造コストを分析して、「この部分のコストは将来的には無くなるので、ゆくゆくはこのぐらいまでコストダウンが可能」というシナリオを示さなければ、世の中の期待と支持を得続けるのが難しくなっていくような気がします。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

日経バイオテク お薦めの専門書籍・セミナー

  • セミナー「バイオベンチャーのエコシステム、その課題を激論!」
    2019年7月29日開催!伊藤レポート2.0「バイオメディカル版」の一橋大学・伊藤邦雄教授による基調講演をベースに、伊藤教授とVC、証券アナリストなどを交えて徹底討論します。新刊「バイオベンチャー大全 2019-2020」発刊記念セミナー。
  • 最新刊「バイオベンチャー大全 2019-2020」
    日本発の将来有望なシーズを実用化・事業化へつなぐ、未上場ベンチャー267社の詳細リポート集!提携先を求める製薬企業や、投資先を探るベンチャーキャピタルにとって、バイオベンチャーの企業価値、コア技術の展望を見通すために有益です。

PR・告知製品・サービス一覧人材・セミナー・学会一覧