【日経バイオテクONLINE Vol.3088】

データ駆動型創薬を成功させる仕組みは「安い・早い・楽」

(2019.01.25 08:00)
坂田亮太郎
東京工業大学生命理工学院の林宣宏准教授
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aiwellの馬渕浩幸社長
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 読者の皆さま、こんにちは!日経バイオテクの坂田亮太郎です。2019年も始まったばかりと思っていたら、もう1月も終わろうとしています。月並みですが、つくづく月日が経つのは早いと感じます。

 「日経バイオテク」では1月14日号で特集「2019年のトレンドを読み解く」を掲載しました。その中で私は、「次世代医療基盤法」について書きました。ご存じのように、次世代医療基盤法は2018年5月に施行されましたが、要となる認定事業者の決定が遅れに遅れています。2018年5月の施行当初は「2018年秋ごろ」にも決まると見込まれていましたが、「2019年1月」にずれ込み、さらに遅れるのは必至な情勢です。関係者の話を総合すると「年度末(2019年3月末)」までには決定しそうですが、「2度あることは3度ある」ともいいます。ぜひとも「3度目の正直」にしていただきたいと思います。

 次世代医療基盤法の重要な目的は、医療に関わるデータを幅広く集め、医薬品や医療機器(サービス含む)の研究開発をもっと効率化することにあります。データを集めやすくするためには規格を統一したり、情報の出し手にインセンティブを与えたりと、データを集める元締めには様々な工夫が必要となります。そのヒントになるかもしれないことを先日聞いたので、読者の皆さんにもお伝えしたいと思います。

 2月4日号の「ベンチャー探訪」に登場するaiwell(東京・千代田区)は「世界中から未病を無くし、人をずっと健康にする」というミッションを掲げています。そこで馬渕浩幸社長が注目したのが、東京工業大学生命理工学院の林宣宏准教授らが開発した「AIプロテオミクス」という手法でした。林氏は血液から分離した蛋白質を2次元電気泳動で画像化し、それを人工知能(AI)で分析することで病気やケガの予兆を発見する研究に取り組んできました。敗血症では98.2%の精度で診断できることも分かっています。

 そこまで聞いた私の正直な感想は、「え!(今どき)2次元電気泳動?」というものでした。今から20年以上前の学生実験で2次元電気泳動をやった(やらされた)記憶が蘇り、「あの、ひたすら時間と手間がかかる2次元電気泳動を平成が終わろうとしている今も……」と言いよどんでいると、林氏はニヤリと笑い、「データ駆動型の研究をやろうと思ったら、装置はなるべく安くした方がいいんですよ」と解説されました。順を追ってご説明します。

 プロテオームの解析手法としては、今の主流は各種の質量分析装置(MS)を使うやり方でしょう。2次元電気泳動装置を使うより分画能は高く、自動化も進んでいます。そんなことは林氏も承知していますが、それではスケーラビリティ(拡張可能性)が乏しいというのです。

 MSは高機能かもしれませんが装置の価格は数百万円から数千万円。これでは使える人が限られてしまいます。その点、2次元電気泳動装置なら10万円以下から買えますから、裕福でない研究室でも使えます。当然、データの出し手が増えます。

 MSはデータの大きさも課題だと林氏は指摘しました。林氏らは、2次元電気泳動で得られた画像をAIで分析する手法を確立しています。最初のデータは自分たちで出すとしても、途中からデータが自然と集まる仕組みを構築したいと考えました。MSの解析データはリッチ過ぎて、いくらブロードバンドが普及したとしても世界中で瞬時にやり取りするのは難しいでしょう。その点、2次元電気始動の画像データは軽いので、ネット経由で世界中からデータが集めやすい。「(機械学習に読み込ませる)教師データが増えれば増えるほど、見えてくるものがある」と林氏はいいます。

 いくら安くたって時間と手間がかかるんじゃダメではないのか?という私の浅はかな疑問に対しても、林氏はとっくに解決済みでした。昔の2次元電気泳動は25cm×25cmと大きなサイズだったので泳動するのに長時間かかっていましたが、今や8cm×8cmでも数千の蛋白質を分離することができるそうです。将来的にはさらにダウンサイジングすることで、数分間で泳動が終わるようにもしたいとのこと。これならベッドサイドでも利用できるかもしれません。ちなみに、画像の分析はAIがやってくれるので、数千のスポットを目を皿にしてチェックする必要もないのだそうです。

 要するに、安くて、早くて、楽であること。これなら賛同者も増えて、データも集まり、さらに研究が進展するという正の循環が起きやすいというのです。「データ駆動型創薬」の重要性が叫ばれている今、データが貯まりやすい仕組みを構築することがキモになりそうです。

「2019年のトレンドを読み解く」
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082400016/010900071/

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