【日経バイオテクONLINE Vol.3086】

第3回Liquid Biopsy研究会を取材しました

(2019.01.23 08:00)
小崎丈太郎

 第3回Liquid Biopsy研究会(当番世話人:近畿大学医学部ゲノム生物学講座・西尾和人教授)が1月19日と20日の両日、東京・新宿の京王プラザホテルを会場に開催されました。講演会場1つ、中継会場1つ、ポスター会場1つの小さな研究会ですが、臨床医から工学の専門家まで多様な職種が集まり、リキッドバイオプシーの社会実装を目指した多様な議論が展開されました。

 癌細胞は、誕生し、宿主の免疫の攻撃をなんとかかわし、増殖しつつ、クローン進化も遂げながら、免疫を欺く術を覚え、自らを栄養する血管を引く技能を発揮して、腫瘍塊に成長します。こうした癌細胞のダイナミズムに応じた治療の構築が求められているわけですが、この過程を組織生検や画像検査で逐次捉えることは不可能です。しかし幸いなことに、癌は成長する過程で一部の細胞や腫瘍に由来するDNA(cfDNA)、マイクロRNAを体液中に遺漏します。これを検出して治療に還元しようというのがリキッドバイオプシーです。

 癌治療が、臓器別から癌ゲノム別へと大きく変貌を遂げつつある今、リキッドバイオプシーへの期待は高まる一方です。組織生検査に比べ、採血という極めて易しい方法で試料採取ができます。これまでのフォローアップ検査よりも高頻度の検査が可能になり、「再発に気がついたら既にかなり進行していた」という悲劇を減らすことも、原理的にはできます。cfDNAや癌細胞以外にも多くのDNA断片や細胞が流れている血液中、言い換えるとノイズだらけの系の中から正確に必要な情報をくみ取る技術的な困難さはありますが、ITやAI技術の意欲的な投入で克服されつつあります。

 癌を手術すると、再発リスクを下げるために、薬物を投与することが常です。しかし、全ての患者にそれが必要であるかは議論がありました。最近になって術後の患者の血液中にcfDNAが検出されるか、されないかで予後が大きく変わるという報告が相次いでいます。それら報告によればcfDNAが検出された患者さんは再発しやすく、生存期間も短くなります。こうした患者さんにはより積極的に薬物療法が推奨され得ます。

 また国立がん研究センターのグループは前立腺癌や膀胱癌の患者の血液中のエクソソームが予後を反映する可能性を報告しました。研究が蓄積すれば、治療方針の決定にあたって必須となっている針生検や膀胱鏡の検査を回避できるようになるかもしれません。

 研究会では、米国のカリフォルニア州に本拠地を置き、ソフトバンクグループが出資するGuardant Health社が日本にラボを開く計画も発表されました。日本に進出した米国の遺伝子検査会社の多くが、検体を母国に送る方式を取っています。Guardant社の試みの行方が注目されます。

 研究会のクロージングレクチャーで西尾・当番世話人は、「今後、臨床応用は、多方面に広がり、癌の領域においても多癌種に拡大し、あるいは癌種を超える可能性もある。早期診断から標準的治療後の獲得耐性機序の同定まで、adaptive treatmentへ広がりを見せている」と指摘、プレシジョンメディシンの鍵技術になると総括しました。

 癌ゲノム検査パネルが保険償還の対象となる2019年は癌ゲノム元年と呼ばれていますが、近い将来、リキッドバイオプシーが保険で使えるようになるものと思われます。そうなると気になのはコストです。低侵襲で、癌のライフステージに対応して逐次的に検査できることは大きなメリットですが、その際のコストはどれくらいになるのか、誰が負担すべきかは、いずれLiquid Biopsy研究会の重要なテーマになると思われます。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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