【日経バイオテクONLINE Vol.3074】

免疫チェックポイント阻害薬の感受性を上げるには

(2018.12.26 08:00)
小崎丈太郎
 膵臓癌は予後が悪い癌の筆頭格です。
 ほかの癌の生存率が年を追うごとに改善しているのに対して、膵臓癌は苦戦が続いています。国立がん研究センターが2018年9月に発表した3年生存率では、胃癌の74.3%、大腸癌の78.1%、乳癌の95.2%、肺癌の49.4%に対して、膵臓癌は15.2%という状況でした(いずれも全ステージを統合したデータ)。その理由として早期発見が難しく、進行して手術が困難になって発見されることが多く、手術できたとしても再発率が高いという点が挙げられます。日本国内では毎年3万人が膵臓癌で亡くなっています。

 膵臓癌の専門医によると「最近、患者さんを10人診察すると、7~8人から“私に免疫チェックポイント阻害薬は使えないか”と尋ねられる」ということです。今年度(2018年)のノーベル生理学・医学賞の受賞では画期的な癌治療法と報道されましたから、それが難治癌の患者さんの関心を呼び起こさないわけがありません。

 しかし残念なことに、膵臓癌に対して免疫チェックポイント阻害薬といえどもはかばかしい成績を残していません。確かに小規模な臨床試験が実施されてはいますが、いずれも効果が低いという結果です。
 それを裏付けるように、免疫チェックポイント阻害薬の抗PD1抗体薬のリガンドであるPD-L1が少なく、リンパ球が認識するネオアンチゲンの数も比較的少ないタイプの癌に、膵臓癌は分類されています。
専門家の多くも膵臓癌の免疫療法に否定的です。2016年の日本膵臓学会による「膵癌診療ガイドライン」(2016年版)では、「(進行した)切除不能膵癌に対して免疫療法は推奨されるか?」というClinical Questionに対して、「一般臨床として免疫療法を行わないことを提案する」と記しています。

 そんな折、今月(2018年12月)からMSDの抗PD1抗体のペムブロリズマブが膵臓癌にも使えるようになりました。正確に言うと、“標準的な治療が困難なMSI-H陽性固形癌へ適応拡大した”というものです。
MSIとはマイクロサテライト不安定性のことです。マイクロサテライトとは短く反復してつながったDNA配列のことで、DNAの複製時にミスを修復する機能が低下した結果、正常な細胞と異なっている状態を指します。このMSIが高頻度で起きている現象がMSI-High(MSI-H)です。
MSI-H陽性癌では、免疫チェックポイント阻害薬の高い効果が報告されていますが、その中に膵臓癌が含まれたというわけです。患者さんたちには朗報といえますが、MSI-H陽性の膵癌は膵臓癌全体の1~2%ときわめて少数です。

 現状では免疫療法の恩恵を受けているとは言いがたい膵臓癌ですが、免疫が全く関係ないわけではありません。厳しい厳しいといわれる膵臓癌ですが、中には長期間生存している患者さんもいます。こうした患者さんを調べると癌組織のネオアンチゲンが多く、しかもそこに反応するリンパ球も多いという特徴が報告されています。
ネオアンチゲンは、がん細胞特異的な遺伝子変異に由来する抗原で、正常細胞には存在しない腫瘍特異抗原です。免疫系からは非自己と認識されることから、ネオアンチゲンを標的とした免疫療法が期待されています。
 
 DNA突然変異の数はネオアンチゲンと相関することが知られています。今回のペムブロリズマブのMSI-H陽性固形癌の適応拡大と同時に、切除不能・進行再発の非小細胞肺癌を対象に特定の殺細胞型抗癌剤と併用する治療法が承認されました。膵臓癌でも強力な抗癌剤や放射線治療と併用し、癌細胞のDNAを破壊し、ネオアンチゲンを増やす臨床研究も構想されています。膵臓癌に対する免疫療法の感受性を上げる戦略が練られているということです。

 2019年は早期発見法の確立とともに、免疫チェックポイント阻害薬への感受性を上げる治療法の開発が膵臓癌治療に新風を吹き込む年になることを祈念してやみません。

 最後にひとつお知らせです。東京証券取引所では1月31日の締め切りで、株式上場市場の区分の在り方、上場基準や上場廃止基準、別市場への移行の基準などなどについてパブリックコメントを募集しています。ベンチャーのエコシステムを形成する上で非常に重要な役割を担うところですから、ぜひ、皆様も積極的にご意見を出してください。ニュースの配信は緊急の場合を除いて原則7日より再会としますので、ここでお伝えしておきます。

https://www.jpx.co.jp/rules-participants/public-comment/detail/d1/20181221-01.html

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