【日経バイオテクONLINE Vol.3062】

武田は“ナイフ”を突き付けられたまま突っ走るしかない

(2018.12.07 08:00)
坂田亮太郎
「武田薬品の将来を考える会」の中心メンバーで、武田創業家の武田和久氏(中央)。左は考える会のアドバイザーを務めてきたファーマセット・リサーチの三島茂氏
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 こんにちは!日経バイオテクの坂田亮太郎です。読者もご承知の通り、武田薬品工業は12月5日に臨時株主総会を開催し、アイルランドShire社の買収について株主の承認を得ました。元社長の武田國男氏をはじめ武田創業家(の一部)が買収に反対する展開となりましたが、蓋を開けてみれば当初の予想通りの結果となりました。

 臨時株主総会が終了してから2時間後、買収に反対してきた「武田薬品の将来を考える会」が記者会見を開きました。中心メンバーで、武田創業家の武田和久氏は「時間が足りなかった」と疲れた表情で敗因を口にしました。考える会では事前に25%近くの反対票は集められると票読みしていましたが(関連記事1)、実際に買収提案に反対した株主は議決権ベースで約11%でした。棄権票も相当数あったので、Shire社の買収に反対する株主は、実質的には全体の数%程度にとどまったようです。

 考える会が主張している通り、Shire社の買収は大きなリスクを伴うものです。例えば、Shire社の高収益が今後も続くかどうかはかなり危うい状態にあります。稼ぎ頭である血友病領域では、「アドベイト」と「アディノベイト」という2製品だけで2017年に世界で約30億ドルも売り上げましたが、これらは中外製薬の「ヘムライブラ」の登場によって売り上げが大きく減ると見込まれています(関連記事2)。

 ヘムライブラは2018年10月に米国で承認されたので、2019年1月から2月になればShire社の血友病製品がヘムライブラにどれだけ市場を奪われたのかも明らかになるでしょう。「そうなる前に、急いで臨時株主総会を開いた」(武田和久氏)という指摘も当たっているかもしれません。欧州当局から買収の承認を早期に得るためか、武田は潰瘍性大腸炎治療薬「エンティビオ」と相乗効果が見込めるShire社の炎症性腸疾患治療薬SHP647を売却することも臨時株主総会の直前に決めました。この点についても、考える会は「拙速だ」と批判しました。

 ただ、そんなリスクは百も承知で、武田の経営陣はShire社の買収を決めたはずです。新薬の開発が難しくなっている以上、規模を拡大して研究開発投資を強化せざるを得ないのも事実。だからこそ多くの株主は、多額の負債を背負い込むことになってもShire社を買収する道を選びました。

 いずれにしても賽は投げられました。武田薬品とShire社は統合作業を迅速に進め、買収メリットを実績で示していくしかありません。想定しているとおり、年8000億円近いキャッシュフローを生み出し続けることができれば、5兆4000億円にも膨らんだ有利子負債も短期間で減らせるでしょう。逆に、想定していた収益が見込めなくなれば、多額の減損リスクに直面することになります。

 Shire社の買収後に、武田の「のれん」(買収額と純資産額の差)は1兆円から4兆円以上に拡大します。日本の会計基準ではのれんを20年かけて均等に償却していきますが、武田が採用している国際会計基準(IFRS)ではのれんを計上する必要がありません。その代わり、監査法人が毎年実施する減損テストで収益力が低下したと判断されれば、のれん代を一気に減損処理する必要があるのです。東芝の例を見るまでもなく、巨額の減損計上で経営危機に陥った企業は少なくありません。言わば、減損リスクという“ナイフ”を突き付けられたまま、全速力で突っ走るしかないのです。

 だからこそ思うのです。武田の社員、そしてこれから武田グループの一員となるShire社の社員には、研究開発の成果を一日でも早く市場に投入できるように頑張ってほしいと心から思います。大きくなった自分たちの船を守るためにも、それが最善の方法のはずです。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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