【日経バイオテクONLINE Vol.3046】

ノンコーディングRNAワールドとバイオインフォマティクス

(2018.11.14 08:00)
小崎丈太郎

 2003年に終了したヒトゲノム計画では、おびただしいノンコーディング領域がゲノム上に存在することを明らかにしました。当時の日本分子生物学会の年会(場所は神戸でした)の後の居酒屋で、遺伝生物学や発生学の教授たちが集まって、ビールジョッキ片手に「あの領域は何だ?」と半ばはしゃぎながら議論していた姿を思い出します。
 「ゲノムが分かったので、次は蛋白質」という声もありましたが、実際はそのように一直線に話は進まず、そのノンコーディングRNA(ncRNA)が生体内で多様な機能を果たしていることが明らかになってきました。 

 tRNAやリボソームRNAはともかく、miRNA、siRNA、piRNA(生殖細胞系列におけるトランスポゾン転移の抑制に関わる)などのsmall RNAと呼ばれるグループやlong non-coding RNA(lncRNA)など多様なRNAの存在が明らかになってきました。これらRNAは、セントラルドグマの転写や翻訳を調節するとともに、エピゲノムをも制御していると考えられています。「考えられている」と言いましたが、実はまだまだ分かっていないことが多いからです。

 ncRNAはmRNAに比べて発現量も低く、時期や細胞特異的に発現するものや核局在のものも多く、種間の保存性が少なく、研究自体ハードルが高いものになっています。生物には斉一性と多様性という次元が異なる2つの特徴があります。この話は大学に入って最初の生物学の講義で登場する話題でもあります(大学や教官によって異なるかもしれません)。この特徴はRNAの特徴を反映しているのかもしれません。

 研究のハードルは高いのですが、03年の生物学の教授たちが興奮していたように、そこには間違いなく生命科学の処女地が広がっているといえます。例えば、200塩基以上のlncRNAは、マイクロアレイでは認識されないRNAでした。しかし、lncRNAの数は約47000ともいわれ、蛋白質をコードした遺伝子の数をしのぐことが明らかになっています。しかもヒトのlncRNAのうち、機能が明らかになっているのは1%にすぎません。しかも05年のレビューによると、98.4%のlncRNAには1つの文献も存在しないということです。
 
 さて、そうなるとncRNAの研究にはwet生物学の研究だけでは不十分で、バイオインフォマティクスのアプローチが欠かせません。次回の「研究室探訪」では、その最前線にいらっしゃる早稲田大学先進工学部のバイオインフォマティクス研究室の浜田道昭先生の研究室にお邪魔しました。浜田先生は東北大学の数学科をご卒業された数学者です。20世紀の生命科学が化学に支えられましたが、21世紀は数学が支えるんだろうなと意を強くする取材となりました。続きはその原稿の中で紹介したく存じます。

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