【日経バイオテクONLINE Vol.3038】

分子ロボット?画期的だからこそ慎重にならざるを得ない

(2018.11.02 08:00)
坂田亮太郎
東京工業大学情報理工学院の小長谷明彦教授
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 皆さん、こんにちは!日経バイオテクの坂田亮太郎です。先日の取材で、非常に面白い体験をしました。東京工業大学情報理工学院の小長谷明彦教授の研究室にお邪魔して、開発中の分子ロボットを見せてもらいました。

 分子がロボットになるのか……と首を傾げながら研究室に向かったのですが、小長谷教授は分かりやすく「分子ロボティクス(分子ロボット工学)」について解説してくれました。

 「ロボット」と聞くと、どうしても鉄腕アトムを思い出してしまう古い世代です。ロボットを構成するモーターやパーツなどを分子レベルに小さくできるのだろうか……と疑問に思っていましたが、見当違いでした。DNAや微小管などの生体分子を用いて、「感覚と知能を持ち合わせた分子サイズのロボット」を作り出してしまおうと小長谷教授らは考えています。

 読者もご承知の通り、生物は生体分子を組み合わせることで複雑な組織=システムを形成しています。こうした生物の持つ機能を利用して、顕微鏡で見なければ分からないような極小ロボットを開発しようという野心的な取り組みです。金属のパーツを組み合わせたメカっぽいロボットではなく、DNAや蛋白質などを用いて人間の意図通りに振る舞う小さな「生物」と考えた方が実態に即しています。分子ロボティクスは、今のところ日本が世界をリードしている研究領域とのことです。

※分子ロボティクスについて、詳しくはこちら(http://www.molecular-robotics.org/)をご覧ください。

 分子ロボティクスの研究はまだ始まったばかりで、現状ではリボソームの中に微小管と分子モーターを入れて動かすなど、要素技術の開発が中心です。一般の人が「ロボット」と感じられるようなレベルに達するには、かなりの時間がかかるでしょう。

 しかし、将来的には薬物を身体内の必要な組織に送達する「宅配ロボット」や病気を組織内部から診断する「医者ロボット」、さらには免疫機能をサポートするような「警備ロボット」などが実現できるかもしれません。また、光合成機能を持つロボットが開発できたら、人類は光を浴びるだけで生きていけるようになるかもしれません。分子ロボットは医療だけでなく、人々の生活を根本から変える潜在力を持っています。

 想像は膨らむばかりですが、小長谷教授は「人間が作った分子ロボットを人体に使って良いのか、研究者自らが積極的に議論に参加する必要がある」と語っていたのが印象的でした。たしかに分子ロボットを兵器に応用しようと考える人間が出てくるのは必至で、研究費も獲得しやすいでしょう。ただ、画期的な技術だからこそ、研究者は自分の研究成果が社会にどのようなインパクトをもたらすのか。とりわけ倫理的な側面から、様々な人々と慎重に協議していくことが欠かせないというのです。

 バイオテクノロジーは、遺伝子組換え技術によって大きくブレークスルーしました。この画期的な技術によってバイオ研究は凄まじい勢いで発展し、医療分野では様々な成果が出ています。しかし、農業や環境分野への社会実装は思うように進んでいません。画期的なテクノロジーだからこそ、中身の良く分からない人には「不気味」を通り越して「恐怖」さえ与えてしまう。ゲノム編集も同様ですが、分子ロボティクスも積極的に「科学コミュニケーション」を進めていく必要があります。

 小長谷教授は「日本人は鉄腕アトムやドラえもんの影響でロボットを好意的に捉えている人が多いが、欧米人は『ロボット=悪玉』と感じている人が少なくない」と話します。だからこそ日本人が、分子ロボティクスの研究だけでなく議論でも積極的な役割が期待されているともいえます。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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