【日経バイオテクONLINE Vol.3035】

産業革新投資機構が米国でファンドを立ち上げる狙い

(2018.10.31 10:30)
橋本宗明

 皆様、こんにちは。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 官民ファンドとして知られる産業革新機構が2018年9月に、既存の投資案件を管理する新会社として、INCJを発足しました。それと同時に産業革新機構自体も改組して、産業革新投資機構を発足しました。

 旧産業革新機構は2009年7月、公的資金と民間からの資金を活用して次世代の国富を担う産業を育成・創出することを目的に15年間の期限付きで設置されました。2025年3月末までという期限が迫り、新たな長期投資が困難になってきたことから、経済産業省は昨年10月に「第四次産業革命に向けたリスクマネー供給に関する研究会」を設置し、その在り方を議論してきました。その中でクローズアップされたのは、産業革新機構がルネサスエレクトロニクスやジャパンディスプレイなど、大企業の救済色の強い投資を行ってきたことへの批判です。

 2月に政府は産業革新機構の設置期限を2034年度末まで9年間延長することを盛り込んだ産業競争力強化法の改正案を閣議決定しました。同時に、産業革新機構は産業革新投資機構に改組し、他省庁の官民ファンドを傘下に置けるようにしました。また、産業革新機構の事業を引き継ぐ形で、既投資先への追加投資やマイルストーン投資、EXITに向けた活動を主要業務として行うために、産業革新投資機構の子会社としてINCJを設立することになりました。INCJの代表取締役会長(CEO)は旧産業革新機構の会長だった志賀俊之氏が務めます。一方で、産業革新投資機構については、元三菱UFJフィナンシャル・グループ副社長の田中正明氏が社長に就任しました。その田中氏が発足時の会見で、「ゾンビ企業を延命する気はない」と強調していたことからも、旧産業革新機構による大企業の救済が大きな批判を浴びていた状況が読み取れます。いずれにせよ、経営陣は新しい顔ぶれになったとはいえ、2兆円の投資規模を持つ巨大な官民ファンドを事実上延命したわけですから、民間の投資が十分に行き届いていないところにリスクマネーを供給するという役割を適切に果たすことが期待されます。

 その産業革新投資機構は10月26日、第1号の認可ファンドへの資金供給を決定したと発表しました。第1号ファンドは米国に設立するJIC-USで、バイオ・創薬関連分野を対象に最大20億ドル(2200億円)の投資を行います。「何で米国で?」という疑問も湧きますが、1.米国にファンドを設けることで、そのエコシステムを構成する優秀な人材、ノウハウ、知見を獲得し、若手の育成につなげる、2.日本の製薬企業などと米国のベンチャーの橋渡しをする、3.日本発のシードの米国での事業化を支援する──といった辺りが狙いのようです。JIC-USでは直接投資を行う他、ベンチャーキャピタル(JUVC)や上場企業に投資するファンド(JUPE)への出資を行うということですから、これらを通じてクロスオーバー投資家(上場前から企出資し、上場後も当該企業の株式を保有し続ける投資家)などの手法も獲得しようということなのでしょう。JIC-USの代表は、米Skyline Ventures社の設立者でバイオベンチャーへの投資経験豊富な金子恭規氏が務めます。

 産業革新投資機構では、このJIC-US以外に、年度内に国内にベンチャーキャピタルや上場企業への投資を行うファンドなどを立ち上げて活動を本格化していく方針です。従って、JIC-USは米国で培われたノウハウを国内に取り込むための機能と位置付けられるもので、その設立がたまたま日本よりも先行したと捉えれば、「何で米国で?」という疑問は晴れそうな気がします。日本ではベンチャー企業が上場すると資金回収のためにベンチャーキャピタルが株式を売却して株価が低迷することが問題として指摘されていました。長期的視野に立って規模の大きな資金を供給できるクロスオーバー投資家がいれば、上場後のベンチャーが株式市場で資金調達して成長していくというサイクルが回りだすかもしれません。

 ただ、経産省が作成した「産業革新投資機構がJIC-USへの特定資金供給を行うことの認可について」とする資料を見ていて気になったことが1つあります。

(資料は下記をご覧ください)
http://www.meti.go.jp/press/2018/10/20181026012/20181026012.html

 「産業革新投資機構は2兆円規模の投資力を有しており、今回のJIC-USへの資金供給額は10%程度」という表現がある一方で、「バイオ・創薬関連分野の全体に占める割合は10%以下になることを想定」ともされています。この数字だけを見ていると、「バイオ・創薬向けの資金は米国に振り向けたのだから、国内での投資はそれ以外の分野で行う」といわれているようにも読み取れます。もっとも、「今後、民間資金を調達して投資規模を拡大していく」とあるので、資金量が増えれば問題ないのかもしれませんが、国内でのバイオ・創薬向けの資金がどれだけ積み上がるのかは気になるところです。いずれにせよ産業革新投資機構には、米国での投資手法やノウハウを日本に還元して、バイオを含めたベンチャーが育つエコシステムの構築に寄与してもらえることを期待しています。

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