【日経バイオテクONLINE Vol.3031】

島津製作所・田中所長のEureka!体験

(2018.10.24 08:00)
小崎丈太郎

 古代ギリシアの科学者だったアルキメデスは、入浴時にお湯が上昇した分の体積は彼の体の水中に入った部分の体積に等しいことを発見し、"Eureka! Eureka!"と2回叫んだといわれています。以来、Eureka!は「分かった」とか「発見した」というときに発せられる感嘆詞として知られてきました。

 先日、島津製作所のシニアフェローで質量分析研究所長の田中耕一氏にインタビューさせていただく機会を頂戴しました。田中所長といえば、今年(2018年)2月に、国立長寿医療研究センター研究所の柳澤勝彦家所長らと共同で血中のアミロイドβ(Aβ)関連ペプチドをバイオマーカーとする検査技術の開発をNature誌オンライン版に報告し、「Aβの脳内蓄積を血液数滴で推測する方法が開発された」と大いに話題となりました(https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/01/30/03805/)。これは田中所長にとって、Eureka!体験でした。今回のインタビューで伺ったのは同氏のEureka!体験であり、それを得るまでの心構えというべきものでした。

 島津製作所のグループが、血液中からAβ関連ペプチドを検出し、アルツハイマー病のスクリーニングへの導入を考えていることは以前から専門家の間で知られていました。しかし、脳内に蓄積したAβ関連ペプチドが血液中に漏れ出してくることに懐疑的な専門家が少なくありませんでした。しかし、田中所長らは研究にまい進し続けました。

 理由は、それまでの最先端研究開発支援プログラム(FIRST)に参加して、血液中に存在する極微量のAβ関連ペプチドを測る方法を確立していたことです。しかし、それが診断に利用できるかどうかは大きな謎でした。少なくとも現時点でも、島津グループが血液中で測定しているAβ関連ペプチドが脳に由来するものなのかどうかは確定していません。そのため、血液中でAβ関連ペプチドを測っても、臨床的な有用性は無いとする声もありました。

 血漿スクリーニングの夢を諦めなかった最大の理由を田中所長は、技術に加え、「とにかくやってみよう!」という企業精神だと指摘します。
 「理論はこれまでの実験結果や仮説に基づいて構築されている場合が多いものですがそれが正しいとは限りません。私たちは先端的な分析手法を開発する過程で、世界の誰もが見ていないものを見ることを重視しています。そして見えたことによるEureka体験!こそが新たな仮説・理論を構築することが予想以上に多いことも知っています」

 田中所長は言わずもがな、02年のノーベル化学賞受賞者の1人です。蛋白質の質量分析のために必要な「蛋白質を気化させる方法」を発見したことが評価されました。 
様々な熱エネルギー緩衝材を検討する中で、誤ってグリセロールを落としてしまったコバルト粉末を「どうせ捨てるものだし」と実験したところ、見事に成功したというエピソードはあまりに有名です。理論や常識を疑う人にこそ、Eureka!と叫ぶことができるようです。次号、日経バイオテクでは、アルツハイマー病研究をめぐる最新動向をお知らせしたいと考えています。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

日経バイオテク お薦めの専門書籍・セミナー

  • セミナー「異常な蛋白質に対する低分子薬の2つのアプローチ」
    2019年6月7日開催!不安定な標的蛋白質の立体構造を安定化する「シャペロン薬」、ユビキチン・プロテアソーム系を利用して標的蛋白質を分解する「標的蛋白質分解誘導薬」。最新の研究開発状況と、2つのアプローチの棲み分けを解説する。
  • 「日経バイオ年鑑2019」
    この一冊で、バイオ分野すべての動向をフルカバー!製品分野別に、研究開発・事業化の最新動向を具体的に詳説します。これからのR&D戦略立案と将来展望にご活用ください

PR・告知製品・サービス一覧人材・セミナー・学会一覧