【日経バイオテクONLINE Vol.3028】

問題があるのは大企業の方では?

(2018.10.19 08:00)
橋本宗明

 皆様おはようございます。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。先週開催されたBioJapan2018の取材を通して、数年前との大きな変化を感じました。何よりもバイオベンチャーやデジタルヘルス系のベンチャーが数多く出展し、プレゼンテーションを行っている姿を数多く目にすることができ、国内外の大手製薬がオープンイノベーションをアピールする姿ばかりが目立った数年前までとはかなり違った印象を受けました。ジャパン・ヘルスケアベンチャー・サミットとして有望なベンチャーが実費を負担するだけで出展できる枠組みを設けた厚生労働省の努力の賜物と言っていいでしょう。

 この厚労省の取り組みに対して、「無料だから出展しているだけ」と皮肉な見方もあるかもしれませんが、そうやってバイオベンチャーや、それを支えるベンチャーキャピタルその他エコシステムの一員が集まる場を設けることが触媒となって、次々に新しい展開が生まれつつあるように感じました。会場で、東京大学先端技術研究センター教授のロバート・ケネラーさんと、参天製薬でコーポレートベンチャーキャピタルの立ち上げに関わった下川建一郎さんから、「米国のエコシステムを利用して日本のバイオベンチャーを育てる」構想を伺いましたが、こうした取り組みが増えていけば日本のバイオ産業が大きく変化していくかもしれません。

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 BioJapanで取材した中で、大変面白いと思ったのは「デジタルトランスフォーメーション」に関する講演です。アストラゼネカのStefan Woxström社長は、リアルワールドデータ(RWD)を用いたリアルワールドエビデンス(RWE)が医療にいかに大きなインパクトを及ぼすかを、SGLT2阻害薬に関するRWEの研究結果が心不全診療ガイドラインに反映された事例などを基に説明しました。Woxström社長が、国内外でRWEに関わってきた立場から、「日本はデータは豊富にあるけど、バラバラなのが課題だ」と話していたのが印象に残っています。次世代医療基盤法でデータの一元化が進めば、日本の医療が大きく変わるかもしれません。

 続いて登壇したインドのIT企業であるHCL Technologies社で、Global Medical Devices Headを務めるPartha Marella氏は、医療機器業界のデジタルトランスフォーメーションが何をもたらすかを説明しました。「医療機器企業はサイロに入っている」と表現していましたが、確かに、例えば医療機器がIoTでつながっていくだけで、医療の効率化や質の向上が図れるはずです。ユーザー側が声を上げることで、メーカーがサイロに閉じこもった状況は変化していきそうです。

 そんな中で、一番面白かったのはメットライフ生命保険執行役員の前中康浩さんの講演でした。デジタルヘルス分野は色々な企業が参入を模索していますが、マネタイズするのが難しいため少し熱が冷めつつある状況だと耳にします。これに対して前中さんは、「生命保険会社はマネタイズの役目を担える存在だ」「デジタルヘルス企業とそのユーザーの間に生命保険会社が加わることで、『三方よし』の世界ができる」と話していました。なるほど、デジタルヘルスのデバイスやアプリはユーザーに行動変容を促して、生活習慣病などを予防するというタイプのものが多いですが、「予防」という目に見えないものにお金を支払うインセンティブを見いだしにくいため、ユーザーがなかなか増えないというジレンマを抱えています。そこに生命保険会社が関わり、保険金や給付金を減らせると分かれば、その分のお金をデバイスやアプリに回せる可能性があるというわけです。ただし、「健康志向の高い人はユーザーになりやすいがその効果が出にくく、そうでない人はユーザーになりにくい」という前中さんの指摘も重要です。

 一方で、前中さんが、「大企業がベンチャーなどと一緒に取り組みを開始しても、法務、コンプライアンス、プライバシーなど様々なところが障壁となって半年もすれば嫌われる」と話していたのも印象に残りました。「そもそも会社の運営の仕組みが外部企業と一緒にやることを考えていないからそういうことになる。サンドボックス的なアプローチをするなどして、早く失敗して経験値を積んでいくことが重要だ」と付け加えていましたが、まさにその通りだと思います。

 「Fail Fast」という言葉があります。何かを試して、速いフィードバックを得て、改良に結び付けていくという考え方で、米国のベンチャーなどでよく聞く言葉です。試してみて、問題があれば改善につなげていくというのは当たり前のようですが、失敗すれば足をすくわれる日本社会においては、「言うは易く行うは難し」なのかもしれません。ある人は、「失敗しなかった人が出世する日本の大企業では、こんな考え方は受け入れられないだろう」と指摘していましたが、どうでしょうか。日本社会がベンチャーをうまく創出できないのだとしたら、それは大企業のやり方をベンチャーに押しつけて、「Fail Fast」の機会を提供できていないからだとも感じます。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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