【日経バイオテクONLINE Vol.3023】

まさに猫だまし?プラスチック製ストローの使用廃止宣言

(2018.10.12 08:00)
日本製紙が試作した紙製ストロー
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 皆さん、こんにちは!日経バイオテクの坂田亮太郎です。昨今、社会的な関心を集めているプラスチックの海洋汚染問題について取材するため、10月2日から5日まで開催された「TOKYO PACK 2018-2018東京国際包装展-」に行ってまいりました。

 包装資材を取り扱う国内外の企業が一同に集まる会場で、プラスチック問題について各社にヒアリングしました。新しいビジネスチャンスに鼻息荒い製紙業界と劣勢に立たされて苦虫をかみ潰したような化学業界という構図が印象的でした。大手外食チェーンが相次いでプラスチック製ストローの全廃宣言を打ち出したことにより、今やすっかりと“悪者”にされてしまったストロー。本質的な問題は他にあるのに、スケープゴートにされた観は否めません。

 海洋に投棄されたプラスチックが海の生態系に大きな影響を与えることは、以前から環境保護団体などが指摘してきたことです。最近になってこの問題が世界中でクローズアップされるきっかけになったのは、2015年にYouTubeに投稿された1本の動画(https://www.youtube.com/watch?reload=9&time_continue=486&v=4wH878t78bw)でした。絶滅危惧種に指定されているウミガメの鼻の穴にプラ製のストローが突き刺さっており、それを「研究者」が抜こうとしている8分あまりの映像です。痛みに悶絶するウミガメの表情、鼻腔から流れ落ちる真っ赤な血、そして鼻の穴に詰まっていたクシャクシャのストロー……この映像を見て、心を揺さぶられない人はいないでしょう。

 この動画をきっかけに、プラスチックが海洋汚染の主たる原因であるという内容の記事や動画が世界中で拡散されました。こうした流れを受けて、米Starbucks社は2018年7月、2020年までに世界中の店舗でプラ製の使い捨てストローの使用を全廃すると発表しました。日本でも、「ガスト」や「バーミヤン」を展開するすかいらーくホールディングスが、プラ製ストローの使用を順次廃止していくと8月にリリースしました。今後、他の外食チェーンなどでもプラ製ストローを排除する動きは広がっていきそうです。

 プラ製ストローの代替として注目されているのは紙製ストローです。実際、TOKYO PACKの会場で紙製ストローの試作品を展示していた日本製紙のブースは盛況で、担当者の前には列ができるほど。やっと捕まえた担当者は相当な手応えを感じているようで、表情はとても明るかったです。

 紙製ストローを手に取った印象は、トイレットペーパーの芯を細くしたようなもの。24時間水に浸けていてもふやけることはなく、紙のにおいで飲料の風味を損なったりしないように独自に改良を重ねたそうです。既に生産体制の準備に取りかかっていますが、問題は価格です。紙製ストローは当初1本当たり5円程度となる見込みで、プラ製ストローよりも5倍以上高くなります。担当者は「従来は必要の無い人にまで樹脂製ストローを提供していたが、今後は申し出があったお客さんにだけ紙製ストローを渡すようにすれば、全体としてのコストはそれほど高くならないのではないか」と話していました。なるほど。目算通りなら、コスト増なくイメージアップが図れるので多くの外食店が採用に動き出すかもしれません。

 一方、化学業界は戦々恐々です。今はやり玉に上がっているのがストローなどに限られていますが、包装資材全般でプラスチックを排除するような動きとなれば経営問題に発展します。実際、就任したばかりの原田義昭環境相は10月5日、スーパーやコンビニエンスストアなどで配られるレジ袋の有料化を義務付ける検討を始めると語りました。

 こうした風潮に、ある大手財閥系の化学メーカーの担当者は不満げでした。「ウチも取り引きがあるから大きな声では言えないが、これこそ猫だましではないか」というのです。理由は明快です。少なくとも日本では家庭ゴミも事業者ゴミも回収されて焼却処分される体制が整備されています。環境省によると、最終処分場で直接埋め立てられるゴミの割合は1%程度。レストランで使われたストローが店舗から持ち出され、河川や海洋に投棄される可能性は限りなく低い。だから日本でプラ製ストローを全廃したとしても、海洋ゴミの解決にはほとんど効果が無いということです。

 では外食産業としてはどう考えているのか。すかいらーくHDに問い合わせると、「まだ紙製プラスチックを使用すると決めたわけではなく、生分解性プラスチックなども含めて検討している」(同社広報)とのことでした。同グループは世界で3178店舗あり(そのうち日本は3133店舗、2018年6月現在)、グループ全体で年間1億500万本のストローを使用しています。2018年末までに、ガストなどの店舗内にあるドリンクバーでストローを置くのをやめ、申し出があった顧客だけに代替ストローを提供するように切り換える予定だそうです。

 たしかにドリンクバーにストローが置いてあれば、習慣としてストローを手に取ってしまう顧客も多いでしょう(私もその一人です)。よくよく考えてみればストローが無ければ飲めない飲料はタピオカドリンクなどわずかであり、必要な人だけに配るようにすれば問題は少なそうです。プラ製ストローの廃止でどれだけコストが増えるかは不明とした上で、「当社は外食産業のリーディングカンパニーであり、コスト増は受け入れていく」(同社広報)とのことでした。

 そもそもすかいらーくHDはセントラルキッチンにおける水使用量を減らしたり、店舗の照明をLEDに切り換えたりと、環境への負荷を少しでも減らそうという地道な取り組みをしてきました。今回のプラ製ストローの廃止宣言にしても、海外の主要な外食チェーンが動き出している以上、国内のトップ企業として何かしらのアクションが必要だったといえるでしょう。何も動かなければ、一部の消費者団体やマスコミから批判を受けかねません。

多くの生分解性プラスチックは解決策にならない

 化学業界が懸念している理由はもう1つあります。現在の多くの生分解性プラスチックでは、海洋汚染問題を解決できないからです。生分解性プラは微生物によって分子レベルまで分解し、最終的には水と二酸化炭素となって自然界へ循環する性質を持っています。国際的に規定された基準によって審査されており、日本では日本バイオプラスチック協会(JBPA)が「グリーンプラ」として表示制度を運用しています。

 問題は生分解されるスピードです。生分解性プラスチックは微生物が働きやすい50度以上の温度でコンポスト化装置の中でなら数週間で分解されますが、そのような環境は自然界ではまれです。崩壊速度を速めれば強度が犠牲になってしまうため、袋や包装資材として役に立ちません。結局、石油由来のプラスチックと価格差があることなどがネックとなり、日本で生分解性プラは農業用マルチフィルムなど非常に限られた用途にしか普及していません。

 むしろ「偽」の生分解性プラスチックの方が有害です。例えば、ポリエチレン(PE)とデンプンを混ぜたプラスチックを「生分解性」として販売している業者がいます。デンプン部分は微生物によって速やかに分解されるので、PEとデンプンで出来たプラスチック製品は見た目上、短期間で崩壊します。ただ、PEは自然環境下では50年から100年は分解されないので、厳密な意味での生分解性プラスチックではありません。むしろ微小に分解されたマイクロプラスチックを環境中にまき散らす結果につながります。

 太陽の光や熱によって分解される酸化型生分解性プラスチックも同様の課題を抱えています。価格が安いため途上国を中心に利用されていますが、分解が不十分なためマイクロプラスチックを大量に発生させることが分かっています。

 5mmよりも小さいマイクロプラスチックはプランクトンを含め海中生物の体内に蓄積し、海の生態系はおろか、それらを食べる人間にも悪影響を与えるのではないかと懸念されています。マイクロプラスチックの大半が魚の内臓にとどまり、人間が食べる筋肉部分には移動しないと見られていますが、人間を含む生物にどんな影響を及ぼすかは「科学的に分かっていない」のが実情でしょう。毎年、海に流れ込むプラスチックは500万から1300万トンに達すると試算されています。このまま何も対策をしなければ、悲惨な結果を招くことだけは間違いなさそうです。

 本質的な問題は、プラスチックごみを適切に廃棄しない人間と不完全な回収システムにあります。プラスチックは「悪者」ではないのです。ペットボトルやレジ袋にとどまらず、衣類や自動車・建設用資材として、プラスチックは私たちの生活に無くてはならないものです。2019年のG20サミット(金融・世界経済に関する首脳会合)は日本で開催されることが決まっており、海洋汚染が主要な議題になると見込まれています。議長国として日本が世界に向けてどんなメッセージを発信できるか。プラ製ストローの全廃やレジ袋の有料化など、本質を外したパフォーマンスだけに終わってほしくありません。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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