【日経バイオテクONLINE Vol.3010】

「んんん?」と思わず唸った「元アトピー患者」のたくましき挑戦

(2018.09.21 08:00)
坂田亮太郎
「アトピヨ」開発者のRyotaro Akoさん
画像のクリックで拡大表示

 皆さん、こんにちは!日経バイオテクの坂田亮太郎です。先日、編集長から「面白そうだから、取材してみたら?」と一通の封書が渡されました。中身を見ると「日本初の“アトピー治療見える化アプリ“が1000ダウンロード!」と書かれたリリースが入っていました。

 最近よくあるデジタル系アプリの宣伝か…と半分冷ややかな眼でリリースを読み進めると、「アトピヨ(アプリの名称)は、アトピーを発症し悩んでいる方々が、治療を自分でコントロールし、お互いの情報を交換し合う場となり、早期回復のサポートになることを目指しています」と書かれていました。開発者のRyotaro Akoさんは元アトピー患者で、自らの体験も生かしてアプリを開発したそう。プログラミングも独学で学んだとか。

 会ってみようと思いました。「リョウタロウ」と名前が一緒なので妙な親近感が湧いたのも一因ですが、患者団体といかに良好な関係を構築するかということは製薬業界ではホットなテーマとなっています。そのヒントになることが少しでも聞けるかもしれないと思ったのです。

 待ち合わせ場所に現れたRyotaro Akoさんは、なんと「アトピヨ」のロゴ入りTシャツを着ていました。さすがに電車の中で着る勇気はなく、近くのトイレで着替えたとのこと。こういう“無駄な”積極性は嫌いじゃない!こっちも一気にテンションが上がり、取材に入りました。

 アトピヨは、「文字」ではなく「画像」を投稿することで、アトピー特有の皮膚症状(状態)を匿名で共有するアプリです。利用は無料で、広告も表示されません(理由は後述)。アプリに投稿した写真は自動で部位ごとに時系列で表示されるため、長期的な変化を視覚的に把握できます。例えば、同じ人が患部の写真を毎日撮っていけば、症状の経過観察が容易となります。

 そんなのスマホがあれば簡単じゃん!と思った方、半分正しいです。ただ、アトピーで悩む患者さんにとって、友人に見せるかもしれないスマホの写真アルバムに、患部の画像を残したいと思うでしょうか。女性はおろか、男性でも患部の写真は誰にも見せたくないはずです。綺麗なレストランで映した、いわゆる「インスタ映え」するキラキラした画像の横に、ジクジクした患部の画像があったら、楽しかった思い出も興ざめしてしまいます。

 だからこそアトピヨでは、アプリ内で撮影した画像をスマホの端末に残さず、すべてクラウド上に保存する仕様にしました。画像だけでなく、食事や薬、そしてどんな石けんを使ったのかなども記録に残すことができます。定期的に皮膚科に通う患者なら、症状の変化をアトピヨに残しておけば、より適切な診療を受けられるようになるでしょう。

 気軽に画像をアップできるような工夫も凝らしました。ユーザーはハンドルネームで登録し、画像には地図情報も残されません(都道府県名のみ入る)。「匿名性を徹底的に高めることで、女性でも自分の肌を他人に見せられる」とRyotaro Akoさんは言います。そこまで説明を聞いて、よく考えられているなと思わず膝を打ちました。元患者だからこそ分かる、細やかな対応と言えるでしょう。

 アトピヨのもう1つの特徴は、同じ悩みを持った患者同士が情報を共有し、互いに励まし合うことができる点です。部位や症状で検索すれば、自分(もしくは子ども)に似た症状の人を探せます。「この石けんを使い始めたら皮膚の赤みが治まってきた」とか「○○を食べたらかゆみが増した」など、同じ悩みを共有している人だからこそ価値のあるコミュニケーションが成立するのだそうです。専門的な助言は医師が行うべきでしょうが、「アトピーは一人で悩む時代からみんなで治す時代になる」というRyotaro Akoさんの言葉は説得力があります。

 アトピヨは2018年7月25日にApple Storeで配布を開始。9月20日時点でダウンロード数は1490。直近1カ月のアクティブユーザーは624(週に1回以上アクセス)なので、かなりロイヤルティーの高いアプリと言えるでしょう。今はiOS版しかなく、アンドロイド版は「いつ出るか未定」とのことです。

 さて、開発者のRyotaro Akoさんはどんな人物なのでしょうか。上智大学理工学部を卒業後、慶應義塾大学の大学院に進学。終了後に公認会計士の勉強を始め、27歳のときに合格。今は上場企業に勤められています。現在39歳で、お子さんも3人いらっしゃるそうです。

 エリート街道をまっすぐ歩いてきたように見えますが、アレルギーに悩まされる日々だったそうです。生まれてから3歳頃までアトピーがひどく、喘息は中学まで患っていました。アレルギー性鼻炎には今も悩まされており、「自分の半生を振り返るといつも病院に通っていた」と言います。

 3年前に家族で熱海に旅行したときのこと。宿泊先は古びた旅館で、嫌な予感は的中しました。部屋の中の古いソファーで子供たちが遊び始めた瞬間、Ryotaro Akoさんは喘息の発作に襲われました。動悸も強くなり、救急車を呼ぶはめに。ステロイド注射で何とか症状は治まったものの、アレルギーから逃れられない自らの宿命を改めて自覚したそうです。

 そこから患者会などのボランティアを始めたり、環境アレルギーアドバイザーの資格を取得したり。自分なりにアレルギーの勉強を積み重ねてきました。そして2017年から、プログラミングの勉強を始めました。「TechAcademy」というオンラインスクールに約30万円払い込み、半年あまりで独力でアプリを完成させました。

 私が感心したのは、Ryotaro Akoさんのたくましさです。学生時代にプログラミングを多少勉強していたとは言え、3人のお子さんの子育てをしながらアプリを開発してしまうという大胆さ。アプリを開発してからは、自らリリースを書き、メディアに売り込むなど抜かりはありません。

 既に全国紙に写真入りで記事が出ているRyotaro Akoさん。アトピヨは無料アプリで、開発費用もすべて持ち出しで賄っています。ただ、アトピヨのユーザー数が増えていけば、サーバーの管理費などのコストもかさみ、ボランティアの範疇を超えてしまいかねません。将来的にどのようにマネタイズしていこうと考えているのでしょうか。

 Ryotaro Akoさんは、アプリ内に広告を出すのは「絶対やらないつもり」と言い切ります。なぜならアトピーの患者は日々苦しい思いをしているので、変な広告で余計なお金を使ってほしくない、のだそうです。ではユーザー課金をするかと言えば、「これもできればやりたくない」と。アトピー患者は仕事も休みがち、医療費もかかる。だからユーザーに負担を強いたくない、とのこと。

 残された方法は、製薬企業や病院とのコラボレーションです。「デジタルアプリは遠隔診療と相性がいいはず」とRyotaro Akoさんは言います。アトピー患者は汗が出ると症状が悪化するので、なるべく外に出たくない。過去の症状の記録を見られるアトピヨを、患者が通う病院が負担してくれないかと考えているのだそうです。

 私としては、ここは製薬企業の出番ではないかと思うのです。「患者中心の医療」を掲げているぐらいなのですから、患者コミュニティーの支援に乗り出す大義は十分にあると考えます。しかも、サラリーマンがポケットマネーで運営している程度の費用負担なのです。中長期で見れば、十二分におつりが出る”投資”ではないでしょうか。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

日経バイオテク お薦めの専門書籍・セミナー

  • 新刊「世界の創薬パイプライン2018/2019」
    海外ベンチャーの創薬プロジェクトを大幅拡充。自社の研究テーマと関連するパイプラインの動向、創薬研究の方向性や競争力、開発状況の他社比較に有益なデータとして、自らのポジショニングを確認できます。
  • セミナー「低分子薬で核酸を標的に」
    2018年12月5日開催!核酸を創薬標的とした低分子薬の創薬研究に携わっているベンチャー企業やアカデミアの専門家を迎え、最新の研究開発状況、創薬手法、創薬の課題を考える。

PR・告知製品・サービス一覧人材・セミナー・学会一覧