エーザイと米Biogen社が早期アルツハイマー病856人を対象に実施した抗アミロイドβ(Aβ)抗体薬(BAN2401)のフェーズII試験(201試験)の結果をアルツハイマー病協会国際会議(AAIC2018)で発表しました。結果はポジティブな結果でした。同社がどのようなフェーズIIIのプロトコルを組むのか注目されます。臨床評価の指標として独自開発したADCOMSを採用しました。今後もこの指標を使うのでしょうか。APOE4陽性の患者に対しては、ARIA-E(浮腫)を警戒して最大用量群(10mg/kgバイウイークリー)への登録をセーブしましたが、フェーズIIIはどうするのでしょうか。いずれにせよ201試験は、苦戦続きのアルツハイマー病治療薬の開発史の中で特筆されるべき事件といえそうです。

 2016 年までは、抗Aβ抗体の治験は失敗続きでした。その理由として、抗体の用量が少なかったのではないかという指摘がありました。抗体薬の用量設定はアルツハイマー病創薬の肝(きも)といえるでしょう。
 もう1つの理由は、神経の脱落が進み、病像が完成した段階ではAβの除去療法に限界があるという指摘でした。その結果、より早期に、できれば発症していないプレクリニカル期(しかしAβは蓄積している)の人をリクルートすれば、効果を期待できるのではないかという創薬のパラダイムシフトが起こったことは周知のとおりです。
 8月10日に日経メディカル開発が都内で開催した「21世紀医療フォーラム」の会議では、登壇した日本医療研究開発機構(AMED)の末松誠理事長が「プレクリニカル期の人を1000人から1500人集められれば、世界のメガファーマも注目するのではないか」と発言しました。実際、アルツハイマー病のための創薬基盤として、治験に登録できるプレクリニカル期の被験者群(trial ready cohort;TRC)を組織化する動きが日米欧で始まっています。

 しかし、そのような治験にふさわしいcohortを確保することは容易でありません。これまでにアルツハイマー病からメガファーマが相次いで撤退したのも、TRCを構築、維持することを不可能と判断したためといわれています。

 Aβの蓄積がありながら未発症という人は65歳以上で全体の10~30%にすぎず、しかも一度登録されていながら、脱落する人も少なくありません。実際に臨床研究や治験に参加する1000人を集めるためには、10000人以上の健康人を登録する必要があるといわれています。
 米国の代表的なアルツハイマー病のTRCであるGlobal Alzheimer's Platform Foundation(GAP)では、臨床研究や治験に参加できる前駆期、発症前を合わせて2000人を集めるために、20万人以上の登録者を集めることを余儀なくされています(2016年現在)。

 症状が出ていない、医療の枠外からリクルートするのですから、当然のことながら効率は低くならざるを得ません。TRCの構築は社会のインフラ、公共事業に近いものがあります。産官学の枠、省庁の壁を超えた仕組み作りを真剣に議論する時が来ているようです。