表1 CDxと癌ゲノム医療で実施される遺伝子パネル検査の違い(取材を基に編集部で作成)
画像のクリックで拡大表示

 おはようございます。副編集長の久保田です。昨年来、日本版癌ゲノム医療について取材を続けており、本日も日本版癌ゲノム医療に関して読者の皆様と情報を共有したいと思います。昨今、二刀流と言えば大谷翔平選手の打者と投手の二刀流ですが、今回考えたいのは、同一の遺伝子パネルをコンパニオン診断薬(CDx)と癌ゲノム医療の双方に使う二刀流です。

関連記事◎癌ゲノム医療向けパネル検査とコンパニオン診断薬の違いは?
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/07/27/04536/

 遺伝子パネル検査は、次世代シーケンサー(NGS)などを用いて複数の疾患(薬剤)関連遺伝子を一度に解析する技術です。ただ、癌領域のCDxとしての遺伝子パネル検査と、癌ゲノム医療で用いる遺伝子パネル検査では、承認申請に必要なデータも、承認後の用途も全く異なります。前者は、有効性が確立している特定の薬剤の投与可否の判断などに使われ、後者は開発中の薬剤なども含めて治療方針の検討に用いるものです(表1)。

 さらに、使用できる医療機関や、解析後のデータが第三者機関に蓄積されるかどうかなども異なります。癌領域のCDx(悪性腫瘍遺伝子検査)では、2018年度の診療報酬改定後、3項目以上になれば6000点と上限が設けられました。一方、癌ゲノム医療に用いる遺伝子パネル検査はまだ開発中のため、診療報酬がどうなるかは分かりませんが、先進医療Bで提供されている「NCCオンコパネル」の費用などを考えると、数十万円にはなるとみられています。

 2018年4月、国内で初めてとなるNGSを用いた遺伝子パネル検査が承認されました。サーモフィッシャーサイエンティフィック ジャパンの「オンコマインDx Target Test CDxシステム」がそれです。同システムは、患者の検体(癌組織)からDNA、RNAを抽出し、同社の「Ion PGM Dxシステム」で数十遺伝子をシーケンスし、変異などを検出する遺伝子パネル検査です。

 ただ、CDxとしての承認に必要なデータしか提出しなかったためだと思われますが、国内で、「オンコマインDx Target Test CDxシステム」はノバルティスファーマの「タフィンラーカプセル」(ダブラフェニブ)と「メキニスト錠」(トラメチニブ)の併用療法を非小細胞肺癌患者に対して実施する際に、BRAF遺伝子変異(V600E)を検出するためのCDxとして承認されました(現時点で保険適用されていないので、ノバルティスファーマが、「BRAF V600E 検査結果提供プログラム」を提供中)。CDxのターゲットであるBRAF遺伝子変異以外の残りの遺伝子変異の解析結果はどうなるかといえば、“研究レベル”で解析結果が医療機関に返却されることになっています。

 一方、現在国内では、百数十遺伝子を解析できる「NCCオンコパネル」(シスメックス・国立がん研究センター)や数百遺伝子を解析できる「FoundationOne CDx」(中外製薬)など、固形癌を中心に複数の遺伝子パネル検査が開発されており、順調にいけば2019年春ごろにも承認されるものが出てくるとみられています。そして、現在承認申請中の「FoundationOne CDx」は、CDxと癌ゲノム医療の双方に使う二刀流の遺伝子パネル検査として、認められる可能性があるとみられます。

 二刀流の遺伝子パネル検査は、保険診療下で、(がんゲノム医療中核拠点病院を含む)算定要件を満たした医療機関ではCDxとして使われ、がんゲノム医療中核拠点病院やその連携病院では癌ゲノム医療に使われることになります。その際、それぞれの対象患者がどうなるかは分かりませんが、おそらく、CDxは(特定の癌種に対して有効性が確立している特定の薬剤の投与可否の判断に使われるので)より早期の患者が対象となり、癌ゲノム医療は(医療費が限られているなどの理由から)より進行した患者が対象となるとみられます。

 そうなったとき、CDxとして遺伝子パネル検査を実施した医療機関で何が起きるでしょうか――。

 ここからは想像ですが、より早期の患者がCDxとして遺伝子パネル検査を受けたら、“研究レベル”で返却された遺伝子変異の中に、何らかの遺伝子変異が見つかり、その変異に対応した(適応外の)薬剤が見つかるかもしれません。もっともそれは、あくまで“研究レベル”で返却された解析結果であり、その結果に基づいて保険診療の枠組みで薬剤を投与したり、臨床試験に登録したりすることは認められないと考えられます(もしかするとがんゲノム医療中核拠点病院ではその限りではないのかもしれませんが……)。より早期の患者にとって真に効く薬剤が見つかっているかもしれないのに、です。

 癌と診断された際、癌ゲノム医療の遺伝子パネル検査を受けるのが理想的――。多くの専門家はこう指摘します。しかし、国内では医療費が限られるなどの理由から、癌ゲノム医療の遺伝子パネル検査の対象患者が限られると見られています。また、癌ゲノム医療の遺伝子パネル検査の解釈が難しいということで、がんゲノム医療中核拠点病院のエキスパートパネルが行うことになっています。その結果、CDxと癌ゲノム医療の間には溝が存在し、癌ゲノム医療が“敷居の高い医療”に位置付けられることになりました。

 二刀流の遺伝子パネル検査は、同一の検査にもかかわらず、CDxとして実施されるか、癌ゲノム医療として実施されるかによって、患者にとっての意味合いも異なることになるわけです。CDxと癌ゲノム医療の溝をいかに早く埋め、癌ゲノム医療をいかに早期に、より多くの患者に届けるか――。「最新の臨床試験の情報が一元化されていない」「変異に応じた薬剤が見つかっても適応外で使えない」など数々の課題に加え、「CDxと癌ゲノム医療の間に溝がある」というのも、日本版癌ゲノム医療を巡る多くの課題の1つに、数えられそうです。