先日、メディデータ・ソリューションズという会社が開催したイベントを取材する機会がありました。同社は製薬企業や医薬品開発受託機関(CRO)からの受託により、治験のデータをクラウドベースで保管、解析するサービスを行う企業です。その取り組みの延長線上に、いわゆるリアルワールドデータを活用できれば医療がどのように変わるかが想像できるような話題もあったので、少し紹介させていただきます。

 まず面白かったのは、医療機関が介在せずに臨床試験が行われているという点です。アスピリンの心疾患予防への有効性やその適切な用法用量などを明らかにする目的で、1万5000例の臨床試験が現在米国で行われているということです。保険者のデータベースでスクリーニングした対象者にメールを送り、興味があればビデオによる説明を受け、同意をしたら4群に割り付けられて試験に入るというものです。この間のやり取りは全てタブレットを使ってとなるので、被験者は医療機関に行かなくても臨床試験に参加できるというわけです。既に5000人以上が試験に入っており、バーチャルでも十分臨床試験が成り立ちそうだということでした。

 この事例は全く医療機関が介在せずに臨床試験を実施するというものですが、モバイルヘルスのツールなどを使って被験者から様々なデータを取得することで、ゼロではなくとも被験者の来院を最大限減らす取り組みも紹介されていました。そうすれば時間や住居地などの制約がなくなり、誰でも臨床試験に参加しやすくなりそうです。また、人が介在する機会を減らすことによって、データの品質も向上しそうです。

 もう1つ面白いと思ったのは、同じ領域の疾患に対して臨床試験を実施する際に、過去の臨床試験のコントロール群のデータを利用することにより、シングルアームの試験でGo/No Goの判断ができたという事例です。現時点では過去の臨床試験のコントロール群のデータの利用は、フェーズIからフェーズIIに進めるか否かの意思決定のためなどに限られているようですが、承認申請時のデータとしても利用できないか、米食品医薬品局(FDA)と協議しているということです。様々な臨床試験におけるコントロール群のデータがあれば、臨床試験のコストが大幅に削減できる可能性もありそうです。

 このようなことができるのも、恐らく同社が臨床試験のデータの標準化を製薬企業やCROに呼び掛け、協力を得てきたことがあるのでしょう。過去の臨床試験データの再利用については製薬企業などから許諾を取って行っているということでしたが、新しい臨床試験の設計などにも有用なため、協力が得られやすいようです。また、臨床試験という、比較的質の高いデータが集まりやすい場での取り組みであることもポイントです。従って、これを医療現場にすぐに敷衍するのは困難でしょうが、モバイルデバイスやリアルワールドデータの活用によって、医療の効率化が一気に進むであろうことはこれらの事例からも容易に想像できます。

 医療費高騰を抑制するために、単価の引き下げや給付の制限などの議論が目に付きますが、技術によって医療をいかに効率化していくかこそ、もっと真剣に取り組むべき課題のように思います。