【日経バイオテクONLINE Vol.2950】

日本版癌ゲノム医療に関して生じた疑問(懸念)

(2018.06.22 10:00)
久保田文

 こんにちは。副編集長の久保田です。今、静岡がんセンターで進行中の臨床研究「プロジェクトHOPE」の取材のため、三島に来ています。プロジェクトHOPEについては、少し先の日経バイオテクでご紹介する予定ですので、ご期待ください。

 さて、プロジェクトHOPEの出口の1つでもあるゲノム医療ですが、厚生労働省が進める癌ゲノム医療の保険適用に関しては、今月初旬、国立がん研究センターに、癌ゲノム医療のデータの収集・管理・利活用の拠点となる「がんゲノム情報管理センター(C-CAT)」が設置されました。C-CATは、先進医療や保険診療の枠組みで提供される癌ゲノム医療で得られる癌ゲノム情報や臨床情報を一元的に収集・管理する基盤であり、以前から日本版癌ゲノム医療の枠組みに位置づけられていました。

 日本人向けのデータベースを構築したり、新たな創薬標的を探索したりするため、癌ゲノム医療で解析したデータを収集するというコンセプトは非常に重要です。なので、日本版癌ゲノム医療にとって、C-CATの存在はなくてはならない存在といえます。

特集◎どうなる日本版の癌ゲノム医療
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082400016/111500040/
※特集の図3に「がんゲノム情報管理センター」が位置づけられている。

 ただ、C-CATの設立記者会見時、配られた資料を見て、「あれっ?」と思ったことがあります。以下のニュースの右上の図を見ていただくと分かりますが、C-CATを表す枠からエキスパートパネルに向けて、臨床的意義づけの付いたゲノム検査のCKDB報告書の矢印が出ていたのです。

ニュース◎厚労省、国民皆保険制度を活用し、癌ゲノム情報を一元収集・活用へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/06/01/04323/
※ニュース右上の図を参照。

 CKDBとは、同定された変異の臨床的意義づけをしたり、変異に関連する臨床試験の情報を紐づけたりするための知識データベースのことです。つまりこの図で、C-CATは、検査施設で解析された患者の配列情報を収集するだけではなく、配列情報をCKDBに当て、どんな病的な変異が見つかったのかや、臨床試験中のものも含めて、どんな薬剤を使用できる可能性があるかなど、治療方針を決めるための情報(報告書)を、臨床医などの専門家から成るエキスパートパネルに向けて出すと言っているのです。

 私が「あれっ?」と思ったのは、その“C-CATが報告書を出す”という部分です。というのも、皆さんご存知の通り、米Foundation Medicine(FMI)社が開発し、国内では中外製薬が承認申請しているパネル検査などでは、FMI社に患者の検体を出すと、FMI社が構築した知識データベースに基づいた報告書が返却されるからです。ニュース右上の図で言えば、検査施設(FMI社)からも報告書の矢印が出ることになるはずなのです(図にはその矢印はありません)。

 設立記者会見でこの点について質問したところ、国立がん研究センターC-CATの間野博行センター長は、「(検査施設から報告書が出る場合は)検査施設からとC-CATからと2つの報告書が出ることになる。どちらを採用して治療方針を決めるかはエキスパートパネルに委ねられる」と説明していました。つまり、エキスパートパネルは、例えば、FMI社からの報告書とC-CATからの報告書の2つを受け取り、それを見比べて治療方針を決めることになるというわけなのです。

 治療方針を検討するのに、2つの報告書があっても、エキスパートパネルは混乱しないのだろうか――。

 これこそが、設立記者会見で私の中に生じた疑問(懸念)です。長くなるので本日はここまでにしますが、日本版癌ゲノム医療に関しては、(この疑問も含めて)いろいろ取材をしておりますので、随時、記事にさせていただきます。では今週はこの辺で。素敵な週末をお過ごしください。

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