【日経バイオテクONLINE Vol.2925】

武田薬品の超大型買収で感じた「不快さ」

(2018.05.18 08:00)
坂田亮太郎

 おはようございます。日経バイオテク副編集長の坂田亮太郎です。5月8日、武田薬品工業からの買収提案を英Shire社の取締役会が受け入れました。買収総額が約7兆円と、日本企業による買収案件として過去最大の規模となります。日本の製薬産業で常にトップを走り続けてきた武田薬品の大きな決断だけに、業界に与えたインパクトは衝撃的です。報道する立場として世紀の瞬間に立ち会えたことに興奮しておりますが、当初から私の心の中には漠然とした「わだかまり」のような感情が巣くっていました。

 買収合意翌日の9日、武田薬品は都内で記者会見を開きました。Christophe Weber社長ではなく、取締役会議長を務める坂根正弘氏(小松製作所相談役)が買収の意義などを20分以上かけて説明しました(記者会見は当初1時間の予定)。「目の前に社長がいるのに・・・なぜ?」と感じたのは私だけなのでしょうか。周囲の記者は坂根氏の言葉を一言も漏らすまじと、必死にキーボードを叩いていました。

 その後、Weber社長のシンプルなプレゼンの後、社外取締役の東恵美子氏が再び、買収の意義を10分近くかけて説明しました。私は20年以上経済記者をやってきましたが、買収会見で当事者(社長)以外がかくも饒舌に話す会見は初めてです。

 質疑応答の中でWeber社長は、自社の研究開発力に満足しているという旨の発言をしました。しかし、私にはそれが彼の本心だとは思えませんでした。もし満足していたら、売上高の3倍以上もの借金を抱えるようなM&Aを実行する必要はなかったはずだからです。ご存じのように、武田薬品は2011年以降に大小様々な企業を買収してきました。まさに時間を金で買ってきたわけですが、武田薬品のパイプライン欠乏症が癒えたという評価は得られていません。

 その責任を4年前に社長になったWeber氏だけに押し付けるのは酷でしょう。そもそもアクトスなど主力品の特許切れは2000年代から分かり切っていたことです。それから10年以上経っても自社で開発した品目が育ってこない。だから高い金を払って、外から買ってくるしかない。こうした現実を前に、Weber社長率いるマネジメントチーム(その多くが外国人)が以下のような結論を導き出してもおかしくはありません。

 「日本人に任せていても、いつまで経ってもモノが出てこないじゃないか」

 これは武田薬品だけの問題ではありません。業界トップの武田薬品には、各大学から優秀な人材が就職しています。研究開発費も他社が羨むほど多い。研究施設だって立派です。ヒト・モノ・カネを十二分に投入して、しかも10年以上経っても成果が芳しくないのであれば、「日本人は薬の開発に向いていないんじゃないか…」と悲観的な気持ちになってしまいます。

 日本人は勤勉な国民だ、とよく言われます。その勤勉さは低分子化合物をひたすらスクリーニングしていく20世紀の創薬に向いていたのかもしれませんが、ITとバイオ技術を駆使した21世紀の創薬には通用しない……のではないか。そんなことを考えていると、心の中に「不快さ」が溜まっていきます。もちろん、これはあくまで私の浅はかな想像であって、事実ではないと信じたいです。

 数年後に振り返った際、武田薬品が世界のメガファーマの一角を占めるようになったのはShire社の買収がきっかけだったと語り草になってほしい。あるいは、武田薬品から出てきた人材がバイオベンチャーなどで活躍する姿もぜひ見てみたいです。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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