【日経バイオテクONLINE Vol.2923】

上場廃止基準の「見直し」が必要な理由

(2018.05.16 08:00)
橋本宗明

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 先週は、武田薬品工業によるShire社の買収合意という、GW明けの寝ぼけた頭を吹き飛ばすようなニュースにすっかり振り回されました。ただ、合併が決まるまでには両社の株主の同意を得なければならず、まだまだいばらの道は続きそうです。とりわけ問題になるのは、買収に伴い巨額の有利子負債を抱えなければならなくなることです。昨日の決算発表で、Christophe Weber社長は財務状況を速やかに改善させることができると強弁していましたが、Shireの株式と交換するために大量の株式を発行し、かつ配当を維持するというのですから、その経営のかじ取りはなかなか難しいものとなりそうです。富士フイルムと米Xerox社の買収合意が破棄された件からも分かるように、株主の意向によっては武田薬品とShire社の合意も、今後どのように展開するかは分かりません。武田薬品の動向からはまだまだ目が離せません。

武田薬品、Shire社買収後に財務レバレッジは下がると改めて強調
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/05/14/04240/
 さて、GW前に経済産業省が発表した「バイオベンチャーと投資家の対話促進研究会」の報告書の件で、少し書いておきたいことがあります。この研究会は、上場後のバイオベンチャーの資金調達が米国などに比べて不十分な現状を問題視して設置されたもので、長年赤字を継続しながら研究開発を進めるという創薬型バイオベンチャーのビジネスモデルが機関投資家をはじめとする金融関係者に十分に理解されていない状況を改善するため、幾つかの提言を行いました。

経産省、バイオベンチャーと投資家の対話促進研究会報告書を公表
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/05/01/04202/
 この研究会の議論には私も参加させてもらいました。で、報告書の提言内容について、誤解されているような部分があるようなので書いておきます。報告書が公表された際に、新興市場の上場廃止基準の緩和を提言したような内容の報道がありましたが、報告書をお読みいただければ分かるように、売上高や利益といった業績基準を要件とする上場廃止基準の見直しを求めたものであって、「緩和」を求めたものではありません。むしろ、現状の上場廃止基準の下では実際に上場廃止になる事例は少なく、新陳代謝が進んでいないことを問題視する声が出ていたぐらいです。少なくとも「創薬ベンチャーだから甘く見てくれ」というような議論でなかったことは強調しておきたいと思います。

 問題は、売上高や利益といった、やりようによっては短期的に“作れてしまう”ようなものが上場廃止基準になっているため、本来のその会社が取るべき戦略を曲げて、所有する知的財産などを安売りしたり、研究開発への投資を差し控えたり、事業戦略とは無関係な製品の販売や受託サービスを行うケースが散見されることです。もちろん、会社は生き物ですから状況に応じて戦略は変化していって当然ですが、企業価値の最大化という会社が本来やるべきことをおろそかにしなければならない上場廃止基準は見直されてしかるべきでしょう。むしろ、企業価値に直結する株式時価総額を上場廃止基準にする方がすっきりとします。

 新興市場の上場基準についても同じことが言えるでしょう。未上場のバイオベンチャーからは、「当社は事業会社との間で共同開発契約を有しているから上場基準を満たしている」といった発言を聞く機会は多いですが、開発初期の時点で契約してしまうことは、その知的財産の安売りにつながるという見方もできます。何より、ベンチャーの取材をしていて、「上場基準を満たしている」ということばかり強調されると、この人は株式上場することだけを目的に経営しているのではないかと思えてしまいます。

 売り上げも無い、契約も無いという状態では、何をもってその会社を評価していくのかが難しいのはその通りですが、そこは投資をする側もしっかりと勉強していく必要があるのでしょう。今回の報告書が出たことで、すぐに機関投資家の目がバイオベンチャーの方を向くようになるとは思いませんが、多少なりともバイオベンチャーに興味を持った機関投資家が、バイオベンチャーのことを正しく理解していく手掛かりになればと思っています。

 最後になりますが、欧州を中心に動きのあるバイオエコノミーの動向と、DIYバイオ、セルロースナノファイバー、スマートセルインダストリーといった、バイオ産業の発展の胎動とも言える分野の動向をお伝えするセミナーを、6月13日に東京・御成門で開催します。皆様のご参加をお待ちしています。

製造革命、インダストリー4.0の次に来る「バイオエコノミー」の衝撃
https://nkbp.jp/2IrScFE

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