【日経バイオテクONLINE Vol.2908】

「イノベーションの価値を認めてほしい」では、もう響かない

(2018.04.20 08:00)
坂田亮太郎

 皆様、おはようございます。4月1日付で日経バイオテクの副編集長に就任しました坂田亮太郎と申します。15年ぶりに復帰しました。よろしくお願いいたします。

 バイオ業界を取材して改めて感じるのは技術進歩の速さです。NGS(次世代シークエンサー)やゲノム編集など革新的な技術が次々と開発され、15年前は「夢物語」とされていた話が現実のものとなろうとしています。新しい技術やビジネスモデルを取材する毎日を、ワクワクしながら過ごしています。

 一方で、旧態依然と感じることもあります。「イノベーションの価値を認めてほしい」という製薬業界の訴えです。

 4月上旬に来日したPhRMA(米研究製薬工業協会)のRobert A. Bradway会長は、2017年末の薬価制度の改正(改悪?)に対して、新薬がもたらすイノベーションの価値が認められなければ、「今後、日本市場に投資していくことに慎重にならざるを得なくなる」と語りました。安倍首相にも面会し、新薬の価値を認めるように直接表明したそうです。

 日本での投資に慎重になるとはどういう意味なのでしょうか。日本法人の雇用を減らすということでしょうか。あるいは、日本市場への新薬投入は断念せざるを得なくなり、再び深刻なドラッグラグが起きてしまうということなのでしょうか。そのような“警告”が素直に聞き入れられると考えているのなら、日本もずいぶんとなめられたものです。

 ちなみにPhRMAは、米国通商代表部(USTR)に対して、日本を知的財産保護に問題がある「優先監視国」に指定するよう提案したことも明らかになっています。

 現実問題として、PhRMAの主張が簡単に通るとは思えません。緊迫する北朝鮮問題や対中戦略において、日米両国は歩調を合わせなければならない政治状況にあります。にもかかわらず、トランプ大統領が一業界のために安倍首相に圧力をかける可能性はどれだけあるのでしょうか。そもそも日本は慢性的に医薬品の輸入超過が続いていることは、読者の皆様もご存じの通りです。

 イノベーションの価値が評価されていないという点については、日本の製薬工業協会も似たような主張をしてきました。しかし、霞が関や永田町を動かすまでには至っていません。

 もちろん、新薬を開発するのは10年以上の歳月と1000億円以上の巨費がかかります。しかも、数千~数万に1つの化合物しか医薬品にならないほど成功確率が低いとも言われています。それだけのリスクを負っているのだから、イノベーションの成果に対価を求めるのは当然だという主張は、私も理解しているつもりです。しかし、世界で最も高齢化が進み、財政も厳しい日本において、薬剤を含めた社会保障費を青天井で増やしていくことはできません。

 では、どうしたら良いのでしょうか。現時点で私の頭の中に明確な答えがあるわけではありませんが、ブレークスルーはやはり「技術」ではないかと感じています。診断技術と組み合わせて薬剤が効かない人を除外する仕組みや、ITやAI(人工知能)を駆使してカネと時間がかかりすぎる臨床試験の効率化など、現時点で変化の萌芽は着実に育ってきています。国民が喜んで対価を支払うような、価値あるイノベーションを起こしていくしかありません。

 だからこそ、その技術を正確に、分かりやすく社会に伝えるメディアの役割も重要だと考えています。技術が高度化すればするほど、一般の消費者にはイノベーションの価値が分かりにくくなるからです。とりわけ日経バイオテクは、バイオ業界の最新動向を伝える使命を負っているだけに、我々の責任は重大だと覚悟しているところです。

 「イノベーションの価値が認められない……」などと仲間内で愚痴っていても、世の中には響きません。自分たちが生み出した価値を、外の世界も巻き込んで積極的にアピールしていく積極性が、今求められていると考えます。

 ということで、これから読者の皆様の元に取材に参り、世の中を変えるバイオ技術の最新動向を伝えていく所存です。面白い話があれば、日経バイオテクオンラインのサイト最下部にある「お問い合わせ」を開き、「お問い合わせフォーム」からお知らせ下さい。よろしくお願いいたします。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

日経バイオテク お薦めの専門書籍・セミナー

  • 「世界の創薬パイプライン2018/2019」
    海外ベンチャーの創薬プロジェクトを大幅拡充。自社の研究テーマと関連するパイプラインの動向、創薬研究の方向性や競争力、開発状況の他社比較に有益なデータとして、自らのポジショニングを確認できます。
  • 新刊「日経バイオ年鑑2019」
    この一冊で、バイオ分野すべての動向をフルカバー!製品分野別に、研究開発・事業化の最新動向を具体的に詳説します。これからのR&D戦略立案と将来展望にご活用ください

PR・告知製品・サービス一覧人材・セミナー・学会一覧