【日経バイオテクONLINE Vol.2882】

高血圧の治療に新展開の予感

(2018.03.14 08:00)
小崎丈太郎

 厚生労働省の患者調査によると、今や治療下にある高血圧患者は1010万8000人に達します(平成26年調査)。臨床現場で使用される降圧薬の顔ぶれを作用機序から眺めると、ここ数年あまり変わっていないような印象を受けます。治療満足度が高い薬剤というと、いろいろな調査で、降圧薬はその筆頭にきます。ともすれば、完成した薬効群の印象を受けがちです。
 しかし、現場では薬物療法にも関わらず期待する降圧効果が得られない患者さんも珍しくありません。そのようなケースでは、薬剤の種類を増やしたり、用量を変えたり、組み合わせを変更するなどの試行錯誤が続いています。既存の治療法に応答しない患者が珍しくないことを考えると降圧療法にはまだまだ、未踏破領域があるようです。

 最近、降圧療法の新しい治療標的として免疫との関係が注目されています。以前から高血圧の発症には神経系と免疫系の相互作用が高血圧の発症に関与している可能性が報告されてきましたが、そうした知見を実際の治療に反映させようという研究が始まっています。
 先日のScience誌には米Vanderbilt UniversityのDavid Harrison氏のグループが2-HOBAという低分子化合物が、マウスの血圧を下げることに成功したとの論文が発表されています。2-HOBAは免疫細胞の働きを阻害することによって、血圧を下げる働きがあるということです。面白いことに、この2-HOBAの由来はソバです。ソバには、有名なルチン以外にも“血管にありがたい成分”があるとのことのようです。Science誌の報告はマウスを対象としていますが、2-HOBAは既に健康ボランティアを対象に安全性を評価する試験が行われています。ClinicalTrials.govによると、その試験のスポンサーはMetabolic Technologies社というサプリメントの会社です。

 Science誌の解説によれば、免疫反応の過剰はストレスや食塩に匹敵する悪役と見る循環器学の専門家もいます。原因が不明な病態を「本態性」と命名し、血管拡張を主体とした治療が主流となってきた高血圧治療ですが、おそらくいろいろな原因があると考えられます。疾患プロセスの下流である血管収縮に照準を合わせてきたことに経済的な合理性があることは確かです。しかし、難治性患者の治療も問題になっている現在、新しく多様なアプローチが求められることも確かといえそうです。

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