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【日経バイオテクONLINE Vol.2867】

非関税障壁としてのカメムシ

(2018.02.21 08:00)
小崎丈太郎

 脳科学者の茂木健一郎氏のブログを拝見しているとしばしば、昆虫の話題が登場します。とりわけ、目を引くのは一般には馴染みが薄いと思われるアカスジキンカメムシです。茂木氏はこのカメムシに特段の愛着があるらしく、何度か取り上げています。2016年5月のブログでは、散策していた都内の公園の目撃情報から「アカスジキンカメムシが成虫になった」と“速報”しています。

 昆虫マニアとしても著名な同氏が愛するアカスジキンカメムシは、メタル系の光沢を放つ緑色の背中に独特の赤い帯模様を有する「日本で最も美しいカメムシの1つ」という称号を持つ優れものです。一方でカメムシには害虫が少なくありません。その筆頭がクサギカメムシ(Halyomorpha halys)です。体全体が褐色で地味でアカスジキンカメムシに比べ、華に欠けるカメムシです。日本全土に分布し広範な果樹を食害し、未熟な果実が加害されると成熟しても表面がボコボコになり、商品価値を損なうという厄介ものでもあります。しかも臭いが強い。クサギカメムシが室内に侵入するとこのすこぶる不快な臭いのために、衛生害虫にも分類されています。

 最近、思わぬニュースを目にしました。ニュージーランドに入港した日本の自動車運搬船からクサギカメムシが見つかり、当局から強制退去を指示される事例が相次いでいるのだそうです。日本の海運会社は目視点検業務を開始したそうです。ニュージーランドの日本からの輸入品目の13.6%は自動車です(2017年、ニュージーランド統計局)。つまり、クサギカメムシが非関税障壁になってしまう可能性があります。

 ニュージーランドはもとより、かねてから対日貿易不均衡を問題視している国に目をつけられ、利用されてしまうかもしれません。何らかの対策を講じる必要があります。よくしたもので、クサギカメムシ独特の不快な臭いは、フェロモンでもあります。つまり他の個体に対する誘引効果があります。日本の港で出港間近の自動車のそばにフェロモントラップを設置し、クサギカメムシの有無をモニターすることが、輸出された現地で混入が露見する事態を避けるためには必要ではないかと思います。

 残念ながら、クサギカメムシのモニター用に市販されているフェロモントラップは現時点ではありません。しかし市販されているチャバネアオカメムシの集合フェロモントラップにクサギカメムシが誘引されたという報告があるようです。考えてみると、何もクサギカメムシだけが、混入の危険のあるカメムシではありません。カメムシ用のフェロモントラップのラインアップの拡充は、日本の輸出産業にとっても喫緊の課題になりつつあるといえます。同時にカメムシ・モニタリングの方法の国際標準化をはかるべく政府間での交渉も必要になることでしょう。