【日経バイオテクONLINE Vol.2853】

ニューロンハンティングの時代が来た

(2018.01.31 08:00)
小崎丈太郎

 ライフサイエンスの歴史には狩り(ハンティング)の歴史の側面があります。米国の微生物学者ポール・ド・クライフが「微生物の狩人」を著したのは1926年のことでした。科学の展開や解析技術の進歩に応じて、狩りの対象はウイルスやホルモン、サイトカイン、遺伝子へと変遷してきました。そしてここ数年は、マイクロRNAハンティングとともにニューロン(神経細胞)ハンティングの時代が到来したのではないかという気がしています。“なにがしかの機能を持ったニューロンを同定した”という報告が相次いでいます。既に2014年のノーベル生理学・医学賞は空間認知ニューロンの研究者に授与されています。先日、日本からも画期的な研究成果が報告されました。

 愛知県岡崎市の自然科学研究機構・生理学研究所の箕越靖彦教授と岡本士毅氏(現在、琉球大学)が、マウスの摂餌行動における炭水化物と脂肪の嗜好が、視床下部室傍核のCRHニューロンによって制御されることを明らかにしたというものです。https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/01/24/03775/
報告によれば、1日絶食させたマウスではCRHニューロンが活性化、炭水化物を優先的に食べるようになるそうです。視床下部はストレスを感じたときにも活性化するニューロンがある場所です。「ツライときには甘い物を食べたくなる」ときもおそらく、CRHニューロンが活性化していることでしょう。

 箕越教授によれば、これからもニューロンハンティングの潮流は続くはずです。同教授が挙げる理由は2つ。1つは、そのための技術の進歩です。光応答性シグナル分子阻害ペプチドで光を照射することでシナプスの活性を操作する技術が確立しました。また遺伝子を改変したG蛋白質共役受容体(GPCR)であるDREADDを利用する方法も登場しました。DREADD遺伝子を導入、形質転換したニューロンではFREADDリガンドによって選択的に活性化を促すことができます。

 ニューロンハンティングが活発化するもう1つの理由は、関心の拡大です。箕越教授らの業績によって栄養応答をニューロンレベルで解析しようという気運が高まると予想されます。炭水化物、脂肪と並ぶ栄養素である蛋白質を嗜好するニューロンに関心が高まることは容易に想像できます。そのほかに箕越教授は、「必須アミノ酸に加えビタミンやミネラルなどの微量の必須栄養素を認識するニューロンにも研究者が注目するようになる」と予想しています。国民の肥満率が40%に迫る肥満大国の米国では、摂食行動を誘発するイニシエーターとなる神経回路を網羅的に捉える研究計画がスタートしています。

 今後は、糖尿病や高血圧などの慢性疾患と栄養学、ひいては日常的な習慣の形成に関わるニューロンハンティングが活発化することでしょう。それはライフサイエンスが新しい獲物を追い始めたこと意味しています。

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