【日経バイオテクONLINE Vol.2838】

研究者大航海時代が到来

クロスアポイントがキーワードに
(2018.01.10 08:00)
小崎丈太郎

 少子高齢化による閉塞状態を打開するキーワードとして「生涯現役」が浮上しています。
 ある研究によると、健康、スキル、職住近接が生涯現役を担保する3要素だそうです。
 キャリアアップにとってスキルは欠かせない要素ですが、最近はそこが従来のようにいかなくなっています。昨年(2017年)、Nature誌が“日本の研究開発の落日”をリポートしました。
その象徴として語られたのが、恒久的な職を確保できなくなった若手研究者の増加です。昨年金沢で開催された日本認知症学会学術集会でプレナリーレクチャーに登壇した理化学研究所の西道隆臣チームリーダーは、講演の最後に「企業様へ『使途特定寄付金』のお願い」と訴えるスライドを掲げ、若手研究員の雇用維持を巡る苦悩を明らかにしました。スライドにはこうありました。

 「アルツハイマー病克服の目前までたどり着きました。しかし、研究費削減のため、職員の給料を支払うことが困難になりました。ご協力をお願いいたします」

 若手研究者のキャリアを維持するために公的な研究費の拠出を増やすことも選択肢の1つですが、国と地方の長期債務残高が1000兆円を超える日本では取りにくいものがあります。本誌は昨年末、「研究開発力強化法」の改正を準備する自由民主党の古川俊治・参議院議員にこの問題を質す機会を得ることができました。詳細は近く誌面にて紹介する予定ですが、そのインタビューの中で古川議員は、アカデミア間、アカデミアと企業間、企業間での研究職の人事交流(クロスアポイント)を加速する方針であると語っています。

 これまでキャリアアップというと、同一の組織や同一の業界での達成を目指すことが一般的でした。アカデミアに入れば、良質の論文を書くことが、キャリアアップの王道でした。それは今後も変わらないと思いますが、一方でベンチャーを起業したり、既存の大企業に移ることを今後活発化させないといけない。逆に企業からアカデミアへの移入も今以上に盛んになっていいはずです。
 これは若手研究者に限った話ではありません。「大学の教授にも自分の問題として考えてもらいたい」と古川議員は発言しています。そうなれば大学の研究室ごと、民間企業へ移籍などということもあるかもしれません。

 キャリア形成のスタイルの見直しは、研究職に限った話ではありません。今後進むであろうAIやロボットの導入は、労働者一人ひとりのキャリア形成の在り方にも大きな見直しを迫るはずです。三菱総合研究所は、日本では2030年度までにAIやロボットなどの技術革新によって500万人の雇用が生みだされる一方、740万人の雇用が失われると予想しています。ロボットといえば、すでにライフサイエンスの世界でも、薬剤のスクリーニングにロボットが活躍しています。慶應義塾大学のようにアカデミアの世界でもスクリーニングロボットを導入する事例が出てきました。
 
 今後はキャリア“アップ”に加え、キャリアの“チェンジ”や“シフト”が重視されることは間違いないところだろうと思います。今年はその大きな転換点が見えてくるのではないかと考えています。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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