【日経バイオテクONLINE Vol.2833】

日本社会の至る所にあるベンチャーに不利な仕組み

(2017.12.27 08:00)
橋本宗明

 皆様、おはようございます。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 まず、お知らせから。12月18日に日経バイオ年鑑2018を発行し、20日にはそのONLINE版を公開しました(日経バイオテクONLINE、法人版のPharma Businessに契約いただいている方はご利用いただけます)。日経バイオ年鑑2017に引き続き、2018年版でもデータ的な内容の記事を充実させました。例えば、製薬企業の売上収益ランキングや、世界の医薬品売上高ランキング、国内外の大手製薬企業の決算のポイント解説、癌医療、ゲノム医療、再生医療、機能性食品の4つの分野の今後10年間のロードマップなどです。もちろん、各分野の個別の話題もこれまでと同様に充実させています。日経バイオ年鑑2018の詳細は、下記のリンクをご覧ください。

(日経バイオテクONLINE) http://nkbp.jp/2BKvJ3j
(法人版/Pharma Business) http://nkbp.jp/2oWk6ki

 さて、11月に経済産業省が立ち上げた「バイオベンチャーと投資家の対話促進研究会」というものに参加して、金融関係を中心に、様々な立場の方と議論する機会を得ています。この研究会は年度内に、国内外の投資家と国内バイオベンチャーの対話を促進するための「バイオベンチャー投資ガイダンス(仮称)」を策定するとともに、マザーズやジャスダック市場におけるバイオベンチャーの資金調達面の課題の整理等を実施する予定で、月1回程度のペースで開催されています。研究会での議論を通じて、日本の国はベンチャー振興と言いながら、ずいぶん大企業に有利な仕組みが至る所にあるものだと、あらためて痛感しています。

 研究会は「率直かつ自由な意見交換を確保するため、原則として公開しない」となっているので、具体的な議論の中身を明らかにすることは避けますが、議論を通じて感じたことを紹介させていただきます。といっても、ベンチャーキャピタル(VC)や金融関係の人にとっては何を今さら、と思うような当たり前のことかもしれません。

 今年、バイオベンチャーでは3月にソレイジア・ファーマが新規株式上場しましたが、結局IPOはこの1社だけとなりました。2016年もフェニックスバイオ1社だけだったので、いざなぎ越えの景気拡大だ、日経平均は26年ぶりの高値だと言いながら、バイオベンチャーはその恩恵にほとんどあずかることができていません。昨今、バイオベンチャーが製薬企業やVCなどからの資金調達に成功したというニュースを多く目にしますが、M&Aという出口があまりないと言われる日本で、IPOがこれだけ不調では、VCの投資はとたんに冷え込んでしまいそうです。

 そのため、東証マザーズなどの新興企業向け市場の上場基準が厳しすぎるといった声が出ているわけですが、では東証マザーズの上場基準を緩和して、もっと多くのバイオベンチャーがIPOできるようにすれば問題は解決するのかというと、決してそんなことはなさそうです。東証マザーズに上場したバイオベンチャーの多くの株価が低迷し、せっかくIPOしても十分には資金調達できていないからです。

 その理由として、もちろん上場したバイオベンチャーの事業が計画通り進まないなど企業側の理由が大きいわけですが、そればかりとは言えません。日本にはバイオベンチャーのリポートを書く証券アナリストが少ないため、機関投資家がなかなか投資せず、その結果、投資先行で赤字経営にならざるを得ないバイオベンチャーのビジネスモデルが理解されずに株価が低迷し、資金調達を難しくしているといった解説も耳にしますが、むしろ因果関係は逆で、バイオを担当する証券アナリストが少ないのは機関投資家がバイオ株にほとんど投資していないからです。

 では、機関投資家がバイオ株に投資しない理由は何なのかですが、これも幾つも理由はあるし、バイオベンチャー側に魅力が無いとか、説明が不足しているなど様の理由もありそうですが、そもそもほとんどの機関投資家は東証TOPIXの銘柄にしか投資していないという実態があります。TOPIXとは、東証一部上場株の時価総額をベースとする株式指数のことです。つまり、東証一部上場企業でなければ、そもそも機関投資家の投資対象にはならないというわけです。

 そのことはデータを見ても明らかで、日本証券取引所グループが公表している「東証上場会社ベースの株式保有状況」のデータによると、2017年3月末の東証一部上場企業の時価総額合計558兆2220億円のうち、29.2%を金融機関(証券会社を除く)が保有しているのに対して、東証マザーズ上場企業の時価総額合計4兆74億円のうち金融機関が保有しているのは4.6%にすぎません。東証マザーズの時価総額の60.5%を個人・その他が保有し、外国法人等が保有する割合も12.3%にすぎません。東証一部では、個人・その他は16.2%と少なく、逆に外国人の保有割合は30.5%に達します。つまり、東証マザーズに上場を果たしたとしてもそこで投資をしている投資家の大半は個人であり、機関投資家や外国人投資家が保有する大規模な投資マネーにアクセスするには東証一部に上場する必要があるのです。

 ところが東証一部にはマザーズ以上に厳しい上場審査基準があり、売上高や利益についての定めがあるため、研究開発投資が先行しているバイオベンチャーが上場するのは困難です。実際、バイオベンチャーで東証一部に上場しているのは、タカラバイオ、ペプチドリーム、ユーグレナの3社だけです。

 日本銀行は金融緩和の一環として、年6兆円のペースで上場投資信託(ETF)の買い入れを行っており、その結果として株価が買い支えられていると指摘されています。その恩恵を受けているのもほとんどはTOPIXを構成する東証一部上場企業と見られ、その結果、東証一部上場企業に比べてマザーズ上場企業などが資金調達で不利になっている面は否定できません。もちろん課題はこれだけではありませんが、こうした世の中の仕組みが、ベンチャーの発展を妨げる要因になっているのも確かでしょう。安倍政権は未来投資戦略の中でイノベーション・ベンチャーの創出を掲げていますが、それを実現するためには至る所にあるこうしたベンチャーを阻害する構造的な要因を、1つずつなくしていくことが必要だと思います。でなければ、多額の資金調達が必要なベンチャーは日本から逃げ出し、NASDAQをはじめとする海外株式市場での資金調達に向かうだろうことは容易に想像できます。

 最後に、いまさらですが日経バイオテクONLINEのfacebook公式ページを作りました。どうぞよろしくお願いします。

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