【日経バイオテクONLINE Vol.2818】

基礎研究力の強化のためにできること

(2017.12.06 08:00)
橋本宗明

 皆様おはようございます。日経バイオテク編集長の橋本です。

 Googleの創業者であるSergey Brin氏やFacebookの創業者であるMark Zuckerberg氏ら、IT分野の経営者や投資家らがスポンサーとなって創設したBreakthrough Prizeの2018年の受賞者が12月3日に発表され、京都大学の森和俊教授が5人の受賞者の1人に選ばれました。森教授は小胞体において、高次構造が異常な蛋白質を検知し、修復するメカニズムを解明した研究者として知られ、毎年、ノーベル生理学・医学賞の候補の1人としても名前が挙がっています。Breakthrough Prizeの生命科学賞は、過去に京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥所長や、東京工業大学の大隅良典栄誉教授が授賞されています。今回の受賞により、森教授は300万ドルを授与されます。この分野の研究がさらに進展するとともに、創薬などに結び付いていくことを大いに期待しています。

 このように、日本の基礎研究者が国際的に高い評価を得る一方で、足元では日本の基礎研究力の低下を指摘する声が強まっています。ノーベル賞を受賞した大隅栄誉教授や東京大学宇宙線研究所の梶田隆章所長らもインタビューなどで基礎研究力の低下を危惧する発言をされていますが、そういう声があるというだけでなく、論文数や引用論文数などのデータを見ても日本の基礎研究力の地盤沈下ぶりは明らかです。

 例えば文部科学省の科学技術・学術基盤調査研究室がまとめた「科学技術指標2017」によると、日本の2013年から2015年の論文数は10年前(2003年から2005年)よりも実数として減少していることに加えて、中国や欧州各国が論文数を増やしていることからシェアは8.0%から4.7%に低下。さらに、被引用の多い論文に絞った分析では国別の順位で4位から9位へと、さらに顕著に低下しています。

 研究開発費の総額では、米国、中国に次ぐ規模ながら、対GDP比の科学技術予算を見ると韓国、中国、ドイツ、米国を下回り、研究者の数でも米国、中国に大きく水を開けられていることが、同資料からは読み取れます。悲観してばかりいても仕方ないですが、基礎研究力を強化するために何らかの手を打たなければ、アウトプットの面で新興国にどんどん抜き去られていく可能性があります。

 ではどうすればいいのか。文科省の科学技術・学術政策研究所が昨年11月にまとめた「日本の科学研究力の現状と課題」と題するリポートによると、「大学の基礎研究力を強化するために優先的に実施すべき取組」として、「総職務時間における研究時間の割合の増加」「研究者の業績評価の見直し(論文数ではなく、質の面からの評価など)」「高い評価を受けた研究者へのインセンティブ付与(給与への反映、研究に専念できる環境の提供など)」を求める声が、研究者に対する意識調査で強く出ていたことが紹介されています。また、現実の職務時間割合のうち、研究時間は02年の46.5%から2013年には35%に減少していることも紹介されており、研究時間の確保が大きな課題となっていることが分かります。

 ただ、競争的資金の獲得や評価などに関する事務作業や、社会サービス活動のために研究時間が減少していることはかねてより指摘されてきましたが、解決策を見いだせずに今に至っています。基礎研究の在り方、競争的資金の配分方法や評価方法も含めて抜本的に見直し、研究者が研究に集中できる環境を作らなければ、ノーベル賞や国際的な科学に関する賞を受賞できる人材を排出する国であり続けることが困難なのは確かでしょう。

 バイオ研究者やバイオ産業に携わる方、約5万人に向けて月曜から金曜まで週5回配信している日経バイオテクONLINEメールに、水曜日と金曜日に掲載している記者によるコラムを掲載します。

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